シリコンバレーの失業率は2%である。日本の失業率は若干改善したものの、依然として4%を超えている。
シリコンバレーでほぼ完全雇用が達成されているのは、IT・ネット関連ベンチャー企業が次々と生まれており、そこに専門的なスキルを持つ優秀な人間が流れ込んでいるからである。
とはいえ、優秀な人間の中でも、新たな仕組みを作り出せる能力を持った人間はとても少ない。そのため、スタートアップ企業はそのような人材を獲得するため、ものすごい苦労をしている。資金はあれどもバリューチェーンの仕組みなくして売上はままならないからだ。
雇用される側から見ると、高度な専門性や実行難度の高い仕組み作りに長けていることは、高い「エンプロイヤビリティ」を獲得したことになる。「エンプロイヤビリティ」とは「雇用可能性」と訳されることが多いが、簡単に言ってしまえば、どんな企業でも通用するスキルを身に付けているため、職探しに困ることが少ない、ことを意味する。
さて、今回のテーマは、「エンプロイヤビリティ」ではなく「エンプロイメンタビリティ」である。「エンプロイメンタビリティ」は、企業側の採用可能性の高さを示す。一言で言えば、優秀な人間を集めることができるだけの魅力的な企業であるかどうか、である。
労働市場の流動性が高く、キャリアデザインを明確に意識して専門性を磨くことに力を入れる米国社会においては優秀な人間を獲得、およびつなぎとめておくことがとても大変なため、「エンプロイメンタビリティ」を高めることに腐心してきた。高いエンプロイヤビリティ(雇用可能性)を持つ社員に対して早い昇進、高い給料、あるいはストックオプション制度の適用といったさまざまな対応を図ってきたのである。
一方、日本では労働市場の流動性の低さや硬直的な評価システムが障害となって、真の意味での「エンプロイメンタビリティ」を意識して高めようとしてきた企業はないのではないだろうか?
「エンプロイメンタビリティ」というものをまったく考えていないことがわかるのが、企業のMBA留学制度であった。MBAを取得した社員は、経営のプロとしての基本知識を身に付けて帰ってくる。つまりエンプロイヤビリティ(雇用可能性)が大幅に向上した人材となっているのである。ところが、元の職場に戻るとあいかわらず他の同期社員と同じレベルの仕事しか与えられず、給料に大きな差がつくわけでもない。多くのMBA取得者が、帰国数年以内で転職してしまうのも当然だった。
では、企業が「エンプロイメンタビリティ」を高めるにはどういう視点を持つべきなのか、ということが次のポイントになる。
実は別に新しくもなんともない理論が適用できると私は考えている。それはキャリア・ニーズとでも呼んでみることにするが、「マズローの欲求5段階説」をベースに考える。すなわち、キャリア・ニーズは、1生理的ニーズ(環境や待遇の良さ)、2安全・安心のニーズ(雇用の安定性)、3愛と所属のニーズ(組織の安定性)、4自己尊重と他者尊重のニーズ(組織の調和性)、5自己実現のニーズ(キャリア開発可能性)という段階を進むという前提で、いかに「エンプロイメンタビリティ」を高めるか、を企業側は考えるべきなのである。
いくら奇麗事をいっても、そもそも仕事がきちんとできる職場環境や待遇が提供されなければそもそも話にならないが、それが満たされると、次には企業組織としてのまとまり・調和から生まれる精神的な安定感を求めるし、最終的には自分らしい生き方が追求できる可能性や場を企業が提供してくれるか、がその企業にとどまるかどうかを決めることになるのである。
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