Weekly Matsuoty 2001/10/09
燃え尽きる人、燃え尽きない人
 
 オリンピックの晴れの舞台で全力を出し切り、メダルを獲得した後の国内大会で勝てなくなってしまうスポーツ選手がいる。彼らは、オリンピックでのメダル獲得という目標を達成したものの、次の目標が見つけられないでいる。いわば、燃え尽きた人々である。

 一方、決して燃え尽きることのない人々もいる。シドニーオリンピックでの優勝に続いて、ベルリンマラソンで優勝・世界記録を樹立した高橋尚子選手もその一人だろう。

 スポーツライター・解説者の増田明美氏がある講演で、高橋尚子選手のエピソードを紹介してくれたことがあったが、フルマラソンの翌日だろうが、雨が降っていようが、とにかくいつも走っているという。また、最近のインタビューで彼女は、引退してまずやりたいことは、1周100KMはある琵琶湖を走ることだと答えている。要は、走ること自体が大好きだなのだ。

 でも彼女の強さはそれだけではない。

“金メダルを取り、今日、世界最高記録を出したことが喜びではない。自分で課した目標をクリアできたことが嬉しい”

 このコメントでわかるように、彼女の目標は外部にはない。自分の中にある。他の選手に勝つことやメダルを取ること、世界新記録を出すことは、内化された目標を達成しようとするプロセスに付随する、おまけに過ぎないことがわかる。だから次々と連続して記録を塗り替えつづけることができるのだ。

 実は、大リーグの首位打者確実のイチローもまったく同じ考え方をしている。彼にとって野球は趣味(好きでやりたいこと)であり、仕事ではないことを以前紹介したと思うが、彼の目標も外部にはない。自分の無限の可能性を信じ、常に新たな可能性を見出し、広げることに注力している。これまで成し遂げた数々の業績に対して淡々とした態度を取り、常に前に進んでいこうとしている。

 Weekly Matsuoty90号で取り上げた「フロー体験」のまさに最適な事例が彼らである。内化された目標を持ち、目標を達成する行為自体に没頭している瞬間瞬間が至福の時となっている。だから燃え尽きることはない。自らのエネルギーを外に向かって放出するのではなく、自分の中で循環させている。

 さて、我々一般の社会人の中にも燃え尽きてしまう人々がいる。おそらく、地位や収入といった外部目標を重視してきた人々だ。一方、常に安定した力を発揮する人々もいる。彼らはおそらく仕事そのものを楽しんでいるはずだ。

 あなたの目標は何ですか?
 
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