Weekly Matsuoty 2002/02/19
オートクライン
 
 あなたの耳に最も心地よく響き、すんなりと受け入れることができるのは何か?

 それはあなた自身の「声」である。

 以前、「カール・ワイク」という、ミシガン大学の変わった先生が、

「私が何を言いたいのかは、口に出してみるまでわからない」

と煙に巻くような発言をしたのを紹介したことがあるが、明確な考えがなくても、とにかく口に出しているうちに考えがまとまっていく、という経験をされたことが皆さんにもあると思う。

 自分がしゃべった言葉、それを自分の耳が素直に受け止める。そしてその受け止めた言葉に反応して新たな言葉が口からでてくる。

 まるで、上部から降り注がれた液体が再び底から吸い上げられ、再び上部から降り注ぐからくりになっている「クラインのつぼ」のようだ。このような自分自身の言葉の循環作用を「オートクライン」と言う。

 頭の中でぐるぐると考えているだけではなく、口に出すことで考えが形になる。そして「オートクライン」によって、最初はぐにゃぐにゃした考えが次第にくっきりとした輪郭を持つ形になり始める。

 だから、自分の思いを形にしたかったら他者とのコミュニケーションが最も有用である。誰かと言葉を交換することを通じて「オートクライン」が働き始めるからだ。

 実は、「コーチング」や「カウンセリング」は、「オートクライン」を働かせることを意識した会話技術である。主に「聞く」ことを通じて、相手の言葉を引き出し、深め、展開させる。そうやって、自分自身で自分の言葉に気付かせるお手伝いをするのがコーチングであり、カウンセリングだと言う。

コーチング、カウンセリングを学ぶ身として、その本質は何か、を考えることがあるのだが、おそらくそれは、「オートクライン」を通じて、自分自身が本当に求めている「価値」を発見してもらうことにある。
 
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