Weekly Matsuoty 2002/04/10
相互依存
 
 ヒトは、母親の胎内から生まれ落ちてすぐには歩くことさえできず、親の手厚い保護が必要である。つまり、赤ん坊は、完全なる「依存」状態にある。

 大きくなるにつれ、自分で動き回り、食事を取ったりすることができるようになるが、衣食住といった基本的な生活環境を親が提供しているる限りは、「依存」していることには変わりがない。

 このような依存状態は、およそ15〜20年以上(それ以上になる人もいるが)続く。それまでの間の長期間にわたって子供たちが受ける教育は、社会人として「自立」するための体制作りである。つまり、社会の中で自立して生きていけるようになるために様々な教育が制度として施されているということである。

 ところが現実の教育現場では、この基本的なことが忘れられており、子供たちは、表面的なゴールへのプロセスとして学校を捉えている。そのゴールとは、一流校への入学、そして大企業への入社といったものだ。

 実は、そのゴール自体は「自立」を意味するものではない。しかし、そのようなゴールが唯一絶対に近いものであるため、はじめからゴールを放棄してしまう子供たちもいる。
 上記に述べたことは、日本の教育問題において「常識」レベルの話だろう。しかし、実はもっと深刻な問題がある。それは、「相互依存」というものを教えていないということだ。

 人里離れた山奥で完全に自活して生きていくのでもない限り、人は、社会という枠組みの中で、お互いに、自分の提供できる何がしかの価値を交換しあって生きていく。その価値交換を媒介するのが貨幣である。しかし、あくまで大切なのは、「貨幣」ではなくて「貨幣」が媒介する「価値」である。なぜなら、ボランティアや物々交換を考えるとわかるように、「価値」は必ずしも貨幣の介在を必要とはしないからだ。

 ここで、「価値」をわかりやすく言い換えるならば、「誰か他の人に役に立つこと」である。「人助け」と言ってもいいかもしれない。助け(それはモノ、時間、力、どんな形態でもよい)を求めている誰かを助けるから、そのお礼としてお金(あるいは自分が生きていくために必要とする何か)がもらえる。つまり、社会とはお互いに助け合い、支え合っている人の集まりなのである。これが「相互依存」の関係にあるということだ。

 人は「依存」から始まり、「自立」を目指す。そして「相互依存」の中で生きていく。
 当たり前のことを言っているかも知れないが、この真理をじっくりと考えることで、自分の生き方、仕事の意義というものが、見えてくるはずである。これを学校教育では十分に伝え切れていない。そこに大きな問題がある。

 金井壽宏氏(神戸大教授)は、キャリアにおいて「自立」と「相互依存」は両立すると言う。「自立」しているからこそ「相互依存」の関係ができる。「自立」できていなければ、一方的な「依存」状態にならざるを得ないからだ。

 さて、こんなことを考えていたら、偶然だが、阪本啓一氏からこんな話を聞いた。ある教育関係者のインタビューで聞いた話しだそうだ。主旨に違いはないが、うろ覚えで内容は正確ではないことをあらかじめお断りしておく。

 「キミたちは、どうしてこうやって毎日暮らしていけると思うかい?」

 こんな質問をすると、日本のこどもたちの大半は、

「親が働いてくれてるから」

と答えるらしい。一方、欧米のこどもたちは、違う答えが多い。それは、

「社会の中でお互いに支えあっているから」

だそうだ。

 私は、このような考え方を与えることのできる欧米教育の秘密を知りたいと心から感じた。そして一方で、日本の教育に対する不信感が増すのを抑えることができなかった。

かなりずれてるよね、日本の教育って。
 
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