Weekly Matsuoty 2002/07/10
組織内地図
 
 バブル(ネットバブルではなく、1990年頃までのバブル経済)の時期に新卒で入社した、いわゆる「バブル入社組」は、‘甘えてる’、‘使えない’‘学習能力が低い’などと、一般にはさんざんな評価がされてきた。バブル後の経済低迷期に、中高年と並行して、まっ先にリストラの対象ともなったのが「バブル入社組」だ。

 バブル経済当時、企業の採用意欲が高く、いわゆる売り手市場でちやほやされ、世間から甘やかされたことが一因としてあるだろう。

 しかし、それだけでなく、組織学習の視点から見た別の理由が、ある研究結果で示されている。

 その研究では、確かにバブル入社組のパフォーマンスや学習能力は、その前後に入社した社員より劣ることが認められた。そして、当該研究によれば、彼らのパフォーマンスの悪さ、また、その背景にあると思われる学習能力の低さは、「組織内地図」の形成に失敗したからであるという。

 「組織内地図」とは、自分が所属する組織の中での、自分の役割や存在意義をしっかりと位置付け・理解するためのものである。私なりの解釈で言い換えるなら、「組織内ポジショニングマップ」となるだろう。この「組織内地図」は、社員各人が自ら形成すべきものであり、企業内にあらかじめ用意されるようなものではない。

 「組織内地図」の形成がされていないと、業務の流れが理解できないし、とりあえず目先のことだけやるという状態に陥る。自分が何をやるべきかという、主体的な判断力が弱く、指示待ちの状態になりがちである。つまり「失敗学」でいう、部分最適化(全体最悪を招く)になる。

 当該研究では、バブル入社組が、組織内地図の形成に失敗した理由として次のような点を指摘する。

・バブル期の多忙な時期のため、十分な研修期間もなく、すぐに前線に投入された。

・大量入社が続いたため、周辺に経験豊富なベテランが相対的に少なく、彼らとのコミュニケーションを通じた仕事のコツや技能を伝承する機会が減った。

 つまり、バブル期入社組の潜在能力が必ずしも劣っていたというわけではなく、むしろ組織全体の業務の流れや、個々人の役割を認識できるような機会が減ってしまったという、企業組織側の要因が大きかったらしいのである。

 さて、よく考えると、変化の激しい昨今、のんびり研修・教育なんかやってる暇はないということで、最近の新卒社員も同様の状況に置かれているのではないだろうか。

 アウトソーシングの進展がもたらす、実質的な組織の解体が起きていることも含め、今後の会社組織の運営は、かなり難しいものになってきているのは確かだろう。

*上記研究は次の文献にあります。
 「組織学習と組織内地図」  安藤史江著、白桃書房、2001年
 
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