人事・人材業界で、「コンピテンシー」という
用語がある。これは、「成果につながる行動」
を意味する。年功序列型の評価・賃金制度で
は、社員のやる気や能力が向上できないこと
から、実際に成果が出るためにはどのような
行動をすべきか、ということを明確化し社員
の人事評価や能力開発に役立てようという目
的で考えられた新しい概念である。
さて、「コンピテンシー」が実際の企業に導
入される際に行われる一般的な方法は、次の
ようなものだ。
・高い成果を上げている社員(ハイ・パ
フォーマー)の行動を観察、測定する
・逆に、低い成果に止まっている社員
(ロウ・パフォーマー)の行動を観察、
測定する
・ハイパフォーマーとロウパフォーマーの
行動の違いを比較して、成果を出すために
必要な行動パターン(コンピテンシーモデ
ル)を作成する
・作成された「コンピテンシーモデル」を評
価基準として用いて、社員の評価、育成に
活用する
こうして、コンピテンシーの考え方が採用さ
れた企業において、社員に求められるのは、
コンピテンシーモデルに沿った行動を行うこ
とである。これは、要は、
「理想的な行動を取るハイパフォーマーの真
似をせよ」
ということである。
現実には、この制度が機能している企業はほ
とんどない。コンピテンシーは、複雑な制度
であり、運用が難しいという理由もある。
だが、そもそも、生まれも育ちも性格も素質
も適性も能力も価値観も動機も業務環境も異
なる社員たちに、一律の理想行動を模倣させ
るのは無理があったのである。誰もがヒーロー
の真似をしたからといってヒーローになれる
とはわけではないからだ。
もちろん優れた人々から学ぶべきことは多い。
しかし、それは、行動の手順やスタイルを真
似ることではない。口下手な営業マンが、口
八丁手八丁の営業マンのスタイルを真似ても
こっけいなだけだ。
大事なことは、行動のレベルを上げていくこ
とである。行動のレベルは、大きくは次の2
つに分けることができる。
・状況従属的な行動
いわれたことをやる、やるべきことをやる、
状況の中で、最適な選択肢を選択すること
・状況変革・創造的な行動
行動に工夫や独創を加えたり、全く新たな
状況を作り出すこと
困難な状況にめげず、それを突破するような
人、そして高い成果を出せる人は、状況を変
革する行動ができる人である。これからはそ
んな人が、社会でも企業でも求められる人材
である。行動のスタイルではなく、「高いレ
ベル」の行動ができるかどうかが重要である。
だから、成果を出すためにとるべき行動の手
順やスタイルは、あなた自身のやり方でいい
のだ。最も自分らしさが発揮できるやり方で
いいのである。ただ、行動のレベルを、状況
従属的なものから状況変革的なものに高めて
いこうとする意識と努力が必要である。
繰り返すが、誰か別の人をヒーローとして崇
め、尊敬するのは結構だが、真似をする必要
はない。自分のやり方を捨てることはない。
ただ、行動のレベルを上げ続けるのである。
ちなみに、自分の行動がどのようなレベルに
あるのかを認識するためには、「言語化」す
ることが望ましいという。漠然とできている
と感じていたことが、言葉にすると、実はた
いしてできていないという「気づき」を得る
ことができる。
「コーチング」は、クライアントの行動の振
り返りを言語化する作業を支援するものだが、
行動のレベルを自ら認識させるということに、
コーチングの意義のひとつがあるのだろう。 |