加山雄三氏は、90年から経営していたスキー
場が、バブルの崩壊などにより困難な状況に
陥った時、自分が何をしたいのか、何のため
に生きているのかを自分の心に聞いたという。
その結果、歌を歌ったり芝居をしたりするこ
との方が、事業経営より大事であり、人を喜
ばせることが自分の「天職」だという気づき
を得る。
そして、天職と思うようになってステージに
立つと、不思議なことにお客さんの反応が変
わった。
以前は、コンサートの感想として、「最高」
「良かったですね」と言われていたのが、こ
こ10年は、お金を払っている立場なのに、
「ありがとうございました」と感謝されるこ
とが増えたという。
さて、このエピソードに関連して、「感動」
についてのある考え方を紹介したい。
‘感動は設計できる’が持論の平野秀典氏
(感動プロデューサー)は、感動の公式を
「期待」と「実感」の関係で説明する。
これは、次のように5段階のレベルがある。
期待>不満 ⇒不満足
期待=実感 ⇒満足
期待<実感 ⇒感動
期待<<実感 ⇒感激
期待<<<実感 ⇒感謝
加山雄三氏のコンサートは、以前は、せいぜ
い期待と実感が一致した場合の「満足」か、
期待を実感がある程度上回る「感動」「感
激」レベルだった。
しかし、加山氏がエンタテイナーであること
を天職と自覚し、ステージに正面切って真剣
に取り組むようになった時から、顧客にとっ
ては、期待を実感が大幅に上回るようになり、
「感謝」せずにいられない、というレベルま
で質が向上したのではないだろうか。
「顧客満足」が経営や商品、サービスの品質
を測定する概念として提唱されて久しい。し
かし、ただ「満足する」だけでは、必ずしも
リピート購入につながる「ロイヤル顧客」に
はなりにくいことが実証されており、「顧客
満足」の有効性が疑われている。
しかし、平野氏の考え方によれば、顧客満足
というのは、品質を評価する尺度としては、
低いレベルにしか過ぎないのである。ロイヤ
ル顧客の獲得を目指すのであれば、その最高
レベルの「感謝」を目指すべきなのである。
「感謝」レベルへの到達を目指すことは、極
めて高いハードルであるには違いない。しか
し、今は、顧客が企業を選択する顧客中心主
義の時代である。「感謝」レベルを目指して
努力する以外に生き残る方法はない。
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