Weekly Matsuoty 2005/01/24
誰か私たちに「見通し」をください
 
昨年話題になった本のひとつに、「虚妄の 成果主義」がある。成果主義が抱える問題 を端的に指摘している良書である。

昨年は、成果主義を批判する本の出版が相 次いだが、この本が発端となっていること は間違いない。

さて、この本で私が非常に興味を引かれた 点は、会社の将来・方向性が「見通し」と して示され、それを社員が理解している場 合、現在の仕事に対する満足感が高く、ま た退職意向も低いことである。

さらに、より高い「見通し」が得られてい る場合には、たとえ現在の仕事に対する満 足度が低くても、退職意向は高くならない ということが調査結果の分析から実証され ていた。

つまり、将来の「見通し」が明確に示され ているならば、現在の仕事内容に不満を感 じていても、将来に夢が持てるから、辞め ずにがんばれるということだ。

この分析は、まあすんなりと納得できる結 果ではある。しかし、現実に目を転じてみ ると、会社の今後の方向性や夢・ビジョン を明快に語れる経営者がいかに少ないこと か!

人はパンのみに生きるにあらず。毎日の元 気・やる気の元は、将来の展望、すなわち 「見通し」なのである。

経営者は、うちの社員たちはちっともやる 気がない、がんばれないなど愚痴る前に、 社員たちに「見通し」をきちんと提示でき ているかを自問すべきだろう。

さて、これまでは企業組織の話しだったが、 「見通し」は、社会全体についても、現在 最も必要とされていることであると思う。 大人たちが、今後、社会を引き継ぐ若者た ちに、明快な「見通し」を示さなければな らない。

なぜなら、「見通し」がないところに「希 望」はないからである。「見通し」があれ ばこそ、夢や希望が実現できるかもしれな いという期待が生まれ、やる気につながる。

今は、がんばっても、将来よくなる見込み が持てなくなってしまった。だから若者た ちは勉強する気が起きず、本気で働く気も しないのである。「見通し」が示されない 限り、どんなに学習強化や若年層雇用対策 を充実しても効果は低い。

“誰か私たちに「しなければいけないこと」 を下さい”(キック・ザ・カンクルー)

というのは甘えだ。 しかし、

“誰か私たちに「見通し」をください”

という若者たちの声なき声には答える義務 がある。そうでなければ、「希望格差社会」 はますます深刻な問題となっていくだろう。

(参考文献)
・虚妄の成果主義、高橋伸夫著、日経BP社
・希望格差社会、山田昌弘著、筑摩書房
・パラサイト社会のゆくえ、山田昌弘著、  ちくま新書
 
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