永世棋聖、米長邦雄氏は1985年、42歳の頃、
4冠王となり、「世界一将棋の強い男」と
称された。
しかし、米長氏はそれ以来、長いスランプ
に落ち込む。どうがんばっても、勝てなく
なってしまったのである。
彼は思い余って、当時20代の弟子に相談し
たところ、弟子ははっきりとこう返した。
「先生の手は相手に読まれてしまってるん
ですよ」
彼がいかに強くても、事前に打ち手が読ま
れてしまえば勝ち目はない。米長氏は過去
の成功体験にすがりつき、知らず知らずの
うちに、やり方がマンネリになっていたと
いうことだろう。
そこで、米長氏は、20歳も年下の弟子に教
えを乞うことにした。教えてもらうのだか
らと、弟子に来てもらうのではなく、弟子
のアパートに自分が出かけていった。
対局の前には、弟子に相手の打ち手の特徴
を聞き(弟子はコンピュータ世代なので、
分析は得意なのだ)、米長氏自身では思い
もつかない打ち手を指示してもらった。
その結果、対戦相手は、米長氏のこれまで
の決まり手とはまるで異なる、新たな打ち
手に混乱し、作戦を組みなおさなければな
らなくなった。
こうして、1993年、49歳で米長氏は悲願の
名人位を取得する。
将棋に限らず、何事も日々進歩しつづける。
特に近年は進歩のスピードが半端ではない。
いつまでも過去の成功体験にこだわってい
たら、あっという間に時代遅れになってし
まう。私自身、携帯世代におけるマーケテ
ィングについては、もはや若手ほどの適応
力はないと率直に認めざるを得ない。
であるならば、素直に若者に頭を下げれば
よい。若者に学ぶのである。くだらぬプラ
イドは捨てよう。
過去の思い出に生きるのではなく、これから
も良い結果を出しつづけることが目的である
ならば。
|