先日、あるセミナーでお会いした方は、小
学生の頃から野球に打ち込んできた。プロ
のピッチャーを目指していたという。
しかし、彼が人生のほぼすべてを注ぎ込ん
できた、プロ野球選手になるという夢は、
大学生の時、あっけなく破れてしまう。
彼は、そのことが原因で自暴自棄になり、
荒れた生活を送るようになる。結局、大学
を中退し、いったん実家に戻らざるを得な
くなった。
彼は、それ以来、フリーターをやりながら、
パラサイト的な生活を送った後、会社勤め
を経て、現在は、とても面白そうな仕事を
やっている。
私は、彼に聞いてみた。
「今は、結構ストレスに強い方じゃないで
すか?」
「そうですね。強い方ですね」
彼の答えは予想した通りだった。
あまり詮索するのはなんなので、突っ込ん
では聞かなかったが、学生時代の挫折、そ
れは彼にとっては、いわば「地獄」を見た
ようなものである。このことが彼の、スト
レスに対する免疫を作ってくれたに違いな
い。
彼にこんな質問をしてしまったのは、最近
の若者は、「ストレス耐性」が極めて弱く
なっていると感じていたからである。
どこかの記事で読んだ話だが、大学生の書
いてきた論文に、指導教官が「ちょっとこ
こを直してみたら」と軽く指摘しただけな
のに、その学生は泡を吹いて倒れたという。
(!)
「夢」があっけなく失われること、大病を
してしまうこと、大きな不幸に見舞われる
こと、無一文になってしまうこと・・・
人は運命に翻弄され、あるいは自らの未熟
さのために、しばしば、どん底に突き落と
され、地獄を見るような体験をする。しか
し、その地獄から這い上がってきた時、そ
の人は、ストレス耐性を高めた、たくまし
い人間として蘇る。(再び地獄を見ること
もあるかもしれないが)
ストレス耐性、つまり、ストレスに対する
免疫を作るのは、できれば若い方がいい。
その方が、自分に対する影響、また周囲に
かける迷惑も相対的に少なくて済むからだ。
だから、若い人たちには、若者だからこそ
許される無謀さ、浅はかさ、ひたむきさ、
がむしゃらさを活かして、「夢」を追い、
チャレンジし、どんどん失敗し、たくさん
地獄を見ておいて欲しいと思う。
はしかと同じで、ストレスに対する免疫も
早めに作っておくのがいい。
実は、私も学生時代に精神的にどん底に落
ち、1年間まったく講義に出ないで、遊びと
アルバイトに明け暮れる時期があった。そ
して、退学も覚悟した。
もちろん、他のもっと大きな不幸に見舞わ
れた方に比べると、私の地獄はたいしたこ
とはないのだが、当時の私にとってはとて
もつらい時期であった。
しかし、私なりの地獄を見たことで、「こ
のまま底に落ちたままでは、一生報われな
いのではないか」という危機感が生まれて
初めて生まれ、なんとか地獄から這い上が
ることができた。
社会人になって以降も、未熟さ故の失敗を
繰り返してきたが、おかげでさまでストレ
スにはめっぽう強くなった。もし、今の私
が傍目には精神的に安定して見えるとした
ら、それは若い頃の数多くの失敗と周囲の
人への多大なる迷惑を通じて形成されてき
たものである。
それ故、両親を含め、これまで私を様々な
局面で関わってくれた方々に、心からの感
謝の気持ちを持ち続けたいと思う。
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