Weekly Matsuoty 2000/01/31
探索財/経験財/信頼財
 
 最近、パソコンを買った。デスクトップにするか、ノートにするか、CPUはやはりペンティアムVにするか、メインメモリーは標準64Mでとりあえずよしとするか、ハードディスクは4Gもあればいいんじゃないか、ブランドにこだわるか・・・。こうやっていろいろと検討するのは楽しいものである。

 パソコンという商品の持つ属性の組み合わせは市場に出回っているものだけでも数百、数千あると思うが、すべて「スペック表」を見れば判断できるので、各商品のパンフレットやWEBサイト、パソコン店の店頭でとことん見比べて、自分のニーズにあったものを十分、事前検討することができる。私の場合、金額や設置スペースを重視し、ブランドや最新のCPUにはこだわらないことにしたので、日立のPriusノート(Celeron 366M)の店頭処分品を19万円弱で購入した。

 このように事前にいろいろと調べて、比較検討できる商品のことを「探索財」という。探索財のカテゴリーには、自動車や冷蔵庫などの耐久消費財や洗剤のような日用雑貨品が入る。とにかく、事前の商品情報が豊富なもの、評価基準がある程度明確にわかるもの、が探索財である。

 一方、ホテルやレストラン、遊園地のようなサービスは、事前の情報が限られているし、パンフレット等に書いてある美辞麗句は統一性がなく、一体、どのホテル、レストランが最も自分のニーズにあっているのかよくわからないことが多い。しかたがないので、最後は「とりあえずこれにしてみるか」と決めるしかない。果たしてそのホテルやレストランが良かったかどうかは、実際経験して初めてわかる。

 このような、主にサービスのように事前情報が少なく、明確な評価基準もあまりない、事前の探索が楽ではない商品を「経験財」という。商品の良し悪しが文字通り経験して初めてわかるからだ。したがって、「経験財」の購入は、ある意味運まかせの部分が多くならざるを得ないが、例えば結婚式のような一生に1度(たぶん)の行事で、大金を投じる場合にまったくの運任せでは困る。

 こんな時最も役に立つのは、実際にそのサービスを利用した経験者の評価である。ただし、人の評価は、客観的なスペックとは異なり、主観的なものであるため、できるだけ多くの経験者の評価を聞くことができる方が良い。ただ、これまでは、経験者の意見を聞くことは偶然出会う以外にほとんどできなかったのが現実である。

 インターネットがこの状況を大きく変えつつある。経験財だけでなく探索財を含めて、個々の商品の購入者が自分の評価を投稿できるサイトがどんどん増えている。その投稿者の評価が妥当なものであったかどうかを評価する、つまり評価を評価する仕組みを提供しているサイトさえある。

 重要なことは、主観的な評価も、たくさん集まれば評価者それぞれの価値観の違いから生まれるバイアスが薄まり、客観的な評価尺度として十分信頼に足るものになる、ということである。つまり、インターネットのこのような「消費者評価システム」は、「経験財」を「探索財」へと変化させる力を持っているのだ。この、消費者にとっては福音とも言えるサービスを提供しているサイトは、より多くのユーザーを獲得することができる。他では「探索」することができないからだ。「消費者評価システム」をサイトに導入する意義はここにある。

 さて、「信頼財」というカテゴリーに該当する商品もある。弁護士や医者が提供するサービスがそれである。彼らのサービスの真価は、専門性が高い領域であるだけに、一般消費者には評価しがたいものがある。結局その弁護士なり医者を信頼してまかせるしかない。だから「信頼財」である。さすがに、まだ信頼財カテゴリーのサービスついて消費者が評価を表明できるサイトは見られないようだが、今後そのようなサイトが登場、そして増加していくのか、興味深いところである。

 果たしてインターネットは、「信頼財」を「探索財」へと変化させ得るのだろうか・・・。
 
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