Weekly Matsuoty 2000/07/12
Eカスタマー
 
 インターネットを媒体として成立するサイバースペースは、人々や市場に2つの大きな価値ないし力を与える。

 1.つなげる価値
 集中や効率化のために、“個をつなげる”ことがもたらす価値

 2.つながる価値
 “個が自発的につながる”ことがもたらす価値

 サイバー社会基盤研究推進センターが今年6月に作成した報告書「サイバーコミュニティ・ソリューションのすすめ」では、上記のうち、2番目の自発的につながった“個”の集まりをサイバーコミュニティと呼んでいる。

 サイバーコミュニティの特徴は、リアル社会と異なり、おおむね共通の趣味・関心を通じて結ばれた集団であるということだろう。つまりある価値観を共有しているのだ。

 一方、リアル社会では物理的、時間的な制約があるため、同一地域内のコミュニティ(地縁)、同一会社内のコミュニティ(社縁)といったものが主体になる。

 これら地縁、社縁で結ばれたコミュニティは必ずしも共通の価値観を持っているわけではない。利害関係の強弱に応じて、率直に言えば“仕方なく”結ばれているだけだ。サイバーコミュニティほどの連帯感、一体感の強さはない。

 さて、消費者、あるいは顧客としての個人はこれまでばらばらに存在し、企業に対しては1個人としてのパワーしか持ち得なかった。しかし、共通の商品・サービスの顧客がコミュニティを形成していくと、当該商品・サービス顧客全体に対する「コミュニティ」としての集合意思の影響力が高くなる。企業としても軽くあしらう、といったことができなくなるのである。

 これまでも消費者団体というものはあった。しかし、活動対象が消費生活全般にわたるために焦点が絞りにくく、また、リアル社会での活動であったため、なかなか自発的に参加する、ということができなかったのである。

 しかし、サイバースペースは、時間と距離を超越するインターネットという媒体を通じていとも簡単にあらゆる種類のコミュニティを生み出している。そして強い影響力を持つコミュニティに対し企業は、様々な権限を委譲しはじめている。「製品開発」「サービス評価」「販売促進」・・・。なぜなら、販売対象となる顧客に、製品開発や販売促進をまかせるのがもっとも効果的だからだ。

 EカスタマーのEは、“Empowered”のEである。つまり、これまで企業内で行われてきた様々な活動を権限委譲されたカスタマーのことである。

 これまでお題目にしか過ぎなかった「消費者志向のマーケティング」が、サイバーコミュニティによってようやく実現されようとしている。企業側の意思ではなく、顧客のパワーによって・・・。
 
 
close