Weekly Matsuoty 2000/09/12
情報価値
 
 コンビニは近いから存在価値がある。だから、たとえ500M先のスーパーで安売りしていることを知っていても、10M先のコンビニで商品を定価で購入する。スーパーまで行く手間・時間が削減できる分、高くてもかまないと思っている。

 さて、インターネットは物理的空間を超越する媒体である。1995年に私が初めてインターネット・マーケティングに関する小文を書いた時、インターネットというバーチャルな空間では、上記のような状況(一物多価)は消滅し、「一物一価」、すなわちあらゆる商品が同一価格にしゅうれんするという仮説を提示した。

 しかし、この仮説は間違っていたようだ。様々なWEBサイトで、同一の商品が異なる値段で売られており、それぞれに買い手がついているというのが実態である。

 なぜか?

 インターネット上で展開される情報空間は、商用化解禁以降、魑魅魍魎が跋扈する混沌とした世界になってしまったからだ。つまり現実世界の生き写しに過ぎないのが今のインターネットだ。

 ここには確かに物理的空間は存在しないが、あまりの情報混雑のために、求めている商品を見つけだすことに手間・時間がかかるようになった。情報を絞り込むことが目的であるはずの検索エンジンでさえ、膨大な検索結果を吐き出すのでほとんど役に立たなくなりつつある。

 このような状況で消費者行動はどうなるのかというと、自分自身がインターネットでどんな購買行動を取っているのか、思い出していただくとおわかりになると思うが、概ね、いつも使っている“なじみのある”サイトや、検索エンジン等で一番上にリストされた情報で購買行動に移ってしまう。他に探せば安く買えるサイトがあるかも知れないとわかっていてもだ。

 リアルワールドでは、アクセシビリティ(距離的な近さ)が購入店舗を決める重要な要因だが、バーチャルな世界では、アベイラビリティ(情報の入手しやすさ)が決め手になる。

 ここでひとつ留意して欲しいのは、アベイラビリティとは、ネットからの入手しやすさだけでなく、自分の脳の記憶領域からの取り出しやすさ(端的に言えば、最初に思い出すかどうか)の両方が含まれるということだ。

 ネットでは「情報」にとても重い価値がある。そもそも情報を交換する媒体だから当たり前だ。情報の価値はアベイラビリティを高めることによってさらに高まる。

実はブランディングの目的は、頭脳の記憶領域からのアベイラビリティを高め、情報価値を高めることにある。なぜ、ネットの世界では、ブランディングが重視されなければならないのか、の答がここにある。物理的距離がない以上、情報的な距離(他と明確に区別できること)を意図的に作り出す必要がある、ということだ。

これに成功すれば価格はあまり重要な要因ではなくなる。他サイトより高い価格でも購入してくれるユーザーを獲得することができるようになる。
 
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