ショッピングセンター(リアル)の集客力を測定する古典的な理論に「ハフモデル」というものがある。
これは、「商業施設の集客力は、売り場面積に比例し、距離の2乗に反比例する」というものだ。くだいて言えば、大きい店舗ほどたくさんの人を集める力があり、一方、消費者の居住地から店舗までの距離が遠くなるほど集客力は大幅に落ちるということである。
実際、自分の購買行動を振り返って見ると、ワンストップショッピングが可能な大型店舗に行くことの方が多いし、車で30分のところより15分で行ける店に行く回数の方が当然ながら多い。
以前、ハワイに建設予定の新しいショッピングセンターの売上予測を立てるため、このハフモデルを採用したことがあった。
この場合、まず、6箇所ほどあるショッピングセンターの売場面積を調べる。次に、500m単位のメッシュに区切ったマウイ島の全エリアから、各ショッピングセンターまでの距離を測定し、各エリアからのそれぞれのショッピングセンターまでの相対的な魅力度を距離と売場面積で算出する。
そして、各エリアの魅力度と居住人口を掛け合わせることによって、推定集客人数を求めるという手順を踏んだ。この推定集客人数に一人当たり年間来店頻度と、一来店当たり購入金額をかければ当該ショッピングセンターの売上予測ができるというロジックだ。
(なお、居住人口より観光客の方が多い特異な観光地のため、各エリアのホテルの総客室数や稼働率といった数値も集める必要があった)
さて、このハフモデル、オンラインショップ/モールの集客力、あるいは魅力度を測定するために使えるのかどうか、というのが今回のテーマである。
オンラインショップ/モールには物理的なスペースは存在しないから、売場面積の替わりに使えそうなのは、取扱商品カテゴリーの広さや商品数ということになろう。
以前は、物理的な在庫スペースの問題がないから理論上オンラインショップ/モールの品揃えは無限である、という無邪気な考え方もあったが、実際にはロジスティックス上の制約がやはり存在するし、WEBサイトの運営・管理コストは商品数の増大に応じてかさむため、オンラインショップ/モールにもやはり品揃え、商品数に大きな差が出ている。
結果として商品力の違いで、集客力に差が出てしまっているのが現実である。この点、リアルでは小売のプロであるはずの百貨店やスーパー、CVSといった企業のオンライン店舗ほど貧弱な品揃えで、わざわざ失敗するためにやっているような取り組みに終わっているのは不思議である。
次に、「距離」の問題だが、バーチャルスペースに物理的な距離は存在しない。だから競合店舗には‘One Click Away’と言われる。それでも商品力には大差がないのに、繁盛するオンラインショップ/モールと、繁盛しないところができてくる。
これはなぜだろうか。勘のいいかたならピンと来ると思うが、「物理的距離」はないが、「心理的距離」というものがあるのだ。これは、端的には各ショップ/モールに対する親近感や信頼を意味し、まさにこれこそが「ブランド」に他ならない。
リアルでは物理的な距離の影響力が大きいためにあまり重視されない「心理的距離」、すなわち「ブランド力」が、オンラインでは集客力の鍵を握ることになるのである。
では、「ブランド」を獲得する方法は何か。フォーシーズンズホテルの会長によれば、それは、「顧客の期待に応えつづけること」であると言う。既にネットバブルの崩壊の過程で自ら痛感したことだが、大量の広告投下で、短期的に得られるものではないことは確かである。
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