Weekly Matsuoty 2000/03/28
無から有を生み出す
 
 ベンチャー事業を立ち上げるための資本調達に欠かせないのは「事業計画書」である。ビジョン、事業コンセプト、ターゲット、ビジネスモデル・・・。

事業計画書に含めるべき項目には様々なものがあるが、最も作成がつらいのが、「収支計画」である。収支計画とは、毎月、あるいは毎年どれだけの顧客を獲得し、どれだけの売上が見込め、一方でコストがどのように増加していくか、結果として利益がどれだけ上がっていくかを3−5年程度の期間で予測するものである。

 収支計画作成の何がつらいかといえば、率直にいって、まだ存在しない市場であり、これから自分たちで開拓していくものなのに、5年も先の売上予測なんぞやって何の意味があるのだろう?という疑問が作成中頭の中をぐるぐると回りつづけることだ。むなしいのである。  どう考えても無意味に思えるのである。何の根拠もないところから、もっともらしい数字をでっちあげる感覚、まさに、無から有を生み出そうとするのが事業収支計画である。

 ただ、だからといって収支計画が不要ということにはならない。収支計画作成には2つの重要な役割がある。

 一つは、その事業を立ち上げるコアメンバーに計数管理能力があるか、を評価するテストとしての役割である。実は資金を出す投資家側も収支計画を頭から信じているわけではない。概ね、この計数管理能力の評価のために収支計画を見るのだ。

 どんなに優れた技術、アイディアがあっても、事業として成立するためには、利益を確保し、キャッシュフローを一定水準に保たなければならない。そのためにはどうしても事業を数字という客観的な尺度でコントロールできる能力が必要なのである。つまり、収支計画がきちんと整合性のある形で作成されているかどうかが、ベンチャー起業家の経営能力を示す試金石となるのである。

 収支計画のもう一つの役割は、それ自体が到達目標として機能する、ということである。収支計画は、たとえ根拠薄弱のでっちあげというレベルだったとしても、投資家の目の前に提出し、それに基づいて出資を受ける以上、投資家に約束した目標となるのである。しかも、客観的にしか評価しようのない数値目標である。とにかくその目標を達成するために死にもの狂いで働かなければならない。大変だが、起業家にとっては良い動機づけのひとつになる。リスクマネーとして投資をしてくれた投資家に対してきちんと報いることは当然だからだ。

 とはいえ、こうやって収支計画のプラス面を強調してはきたものの、やはり収支計画作成はつらいものである。そしてベンチャー事業の実践はさらに大変だ。だが、だからこそ、毎日が極めてエキサイティングなのは確かである!
 
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