Weekly Matsuoty 2000/06/27
経営者の仕事
 
 「経営者の仕事とは何か?」

この質問に即座に答えることのできる人は少ないと思う。例えば、システム開発のエンジニア、経理担当、営業担当といった明確な職務内容が定義されるものではなく、あいまいで様々な領域にまたがる仕事だからだ。しょせん抽象的な言い方になるかも知れないが、まさに「企業」を経営することが経営者の役割だから、仕事内容を一言で語れるはずはない。

ここでは、経営者の仕事を「経営資源の調達と運用」であるという側面から説明してみたい。

経営資源とは、ヒト(経営陣、社員)、モノ(設備等)、カネ(資金)のことである。現実問題として、まず資金を集めなければ事業は始められないので、貯金をあてるなり、銀行から借りるなり、ベンチャーキャピタルにビジネスプランを持ち込んで出資を募るなりの資金調達活動をしなければならない。また、カネがあっても業務を遂行するヒトがいなければこれまた事業は回らないので人材調達もやらなければならないし、事業を回すためのインフラとして設備を整えていく必要がある。

こういった、一連の資源調達活動でモノを言うのはなんと言っても、コミュニケーション能力・プレゼンテーション能力である。開いて言えば、「口のうまさ」である。何もない段階で、壮大なビジョンを語り、金を出してくれる相手を魅了し、社員候補者には、共に夢を実現してみたい、と思ってくれるまでとことん口説いて、事業に巻き込んでいかなければならないからだ。

さて、こうして調達した経営資源は運用しなければならない。売上・利益を生み出し、事業を存続させるために。

事業存続を目的として資源を運用するために必要とされる経営者の仕事はなんだろうか?それは、ビジョンを具現化する経営戦略立案であり、具体的な行動計画策定であり、活動状況をきちんとモニターする財務管理であり、組織を活性化させるリーダーシップである。

こうしてみると、経営資源調達よりも経営資源運用において極めて高度なスキルが要求されることが実感される。したがって、優れた経営者として認められるためには、経営資源運用に精通することが必須なのである。

問題は、経営資源の調達とその運用の両方が得意な経営者はとても少ない、ということだ。特に「夢を語ること」「人を魅了すること」には長じているが、いざ事業を起こしてみるとめちゃくちゃな経営をしてしまう。つまり運用ができないケースが多い。経営資源の運用において重要なのは、現場感覚を持っていること、問題の本質を的確に掴んで迅速な判断を下せること、といった経験の積み重ねによる部分が多いからである。要は経験が足りないということだ。(結果的に経営者の資質がないということになる場合もあるが)

若手のベンチャー企業経営者が、がむしゃらに自分の夢の実現を目指して会社を起こし、一見成功しているように見えても、運用能力に欠けているために内情はボロボロというのは良く聞く話である。(現場の社員がとても苦労している!)

なお、経営コンサルタント上がりの経営者も要注意である。さすがにコミュニケーション能力に長けており、経営資源調達はうまいが、現場を知らず、思い込みで経営資源運用を行なってしまうために、事業運営がガタガタになる、というケースがある。
もちろん、運用は経験の積み重ねに頼るところが多いので、学習能力が高い経営者であれば、資源運用能力も早々とマスターして事業を成功に導くことが可能なのだが。

経営者を目指すには、経営資源調達能力もさておき、経営資源運用能力を磨けるような機会を求め、また経営者的視点を意識した行動を常日頃から心がけておく必要があるだろう。

なお、このテーマに関連した優れた論文がある。「知恵市場」というグループが主催するメーリングリストで議論された内容をまとめたエッセンス(有料だが)である。興味があれば参照されたい。

http://www.chieichiba.net

そのエッセンスのテーマは、

「マネジメントへの道−キャリアの断層を飛び越えるには?」

である。
 
close