「文化」、「伝統」、「しきたり」といったものは、ある特定の社会や組織において、少しずつ形成され、つちかわれた行動様式である。
その社会や組織の全構成員が必ず従わなければならない「法律」ほどの強制力はないが、構成員として認められるには、ある程度、属する社会や組織の文化、伝統、しきたりには従うことが共通の認識になっている。
なぜ、構成員が従うのかというと、その方が回りから評価され、高い地位や収入を得られる、といったメリットがあるからである。逆に従わなければ、いわゆる村八分にされる可能性というデメリットがあるからである。
企業という組織の場合、明示的には「経営理念の唱和」「社歌の斉唱」といった刷り込み型施策や「人事考課制度」「表彰制度」といった評価システムによって積極的に従うことが奨励される。
企業は、自然発生的に形成された地域社会等とは異なり、ある目的達成のために意図的に形成された組織体だから、その目的達成に必要と考えられる模範的行動を社員がとれるよう、明示的・暗示的に働きかける。結果として、その企業特有の文化や伝統、しきたりが形成されるのである。
さて、社員としては、自分の勤める会社の文化や伝統、しきたり、といったものは、就業規則に書いてあるわけではないため、経営者の言葉や経営理念、ビジョン、評価システムといったものを総合的に判断して、自分が取るべき望ましい行動を決めることになる。
社員として困るのは、経営者の言葉がころころ変わったり、ビジョンが不明確だったり、評価システムが確立しておらず、上司の恣意的な裁量で評価が決まってしまうような会社だ。
むしろ、性格ややることはめちゃくちゃだが、ビジョンは一貫しているワンマン経営者の方がよほどやりやすい。
自分が評価しない人間は徹底的に糾弾するような邪悪な独裁者であっても、従う人間がいるのは、行動規範が明確に示されており、それに従う限りにおいては自分は安泰だからである。ルールが全くないよりは、ひどいものであってもルールがある方がましだと考えるのが人間心理である。
さて、ベンチャー企業の場合、文化や伝統、しきたりといったものをこれから形成していかなければならない時期にある。そんな時にビジョンや経営方針をきちんと示さなかったり、評価制度を確立しなかったらどうなるか。社員はそれぞれ好き勝手な判断で物事を判断し行動するため、会社全体としては一貫した行動にならず、大混乱に陥ることになる。方向性喪失の状態だ。文化がそもそも形成されない。
こんな会社が「カルチャーレス・カンパニー」である。
新しい事業の立ち上げは、全てが白紙から始めなければならないため、本来的に試行錯誤、朝令暮改、右往左往が避けられない。それでも一貫した行動規範が認識されていれば、言い換えれば「行動の軸」がぶれなければ、多少遠回りになることがあったとしても、確実に目的に向かうことができるのだが。
創業数十年の企業でも、安心してはいけない。知らぬ間に良き文化や伝統、しきたりが失われてしまっているのかも知れない。雪印もそんな会社のひとつだろう。
皆さんの会社のビジョンは明確ですか?
評価システムは明確ですか?
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