ミシガン大学カール・ワイク教授によれば、「行為は思考に先行する」という。
“あなたは最初に何かを行ったり言ったりしなければならない。その後、あなたは何を考えていたか、決定したか、あるいは行ったかを見出すことができるのであるから”
(組織化の社会心理学 第2版)
何やら禅問答のような言い方だが、つまりは、「考えてから跳ぶ」のではなく、「考える前に跳べ」ということである。しょせん、戦略や計画は、後付けの理屈にしかならないと言っているのだ。
以前も書いたが、どんなに精緻な事業戦略計画を書いても、いざ実行に移すと8割方は軌道修正を余儀なくされ、あとの残りもずぶずぶと沈み続ける。
では、行動において重要なのは何か。
その答えとして、ワイク教授が好きなエピソードを紹介する。ハンガリー軍の話だ。(内容はうろ覚えなので、本筋をはずさない範囲で適当に脚色させていただく)
・・・
ハンガリー軍がスイスアルプス山中で冬季軍事演習を開始した初日、演習責任者の大尉が、軍曹以下部下3名に斥候を命じた。しかし運悪く、彼らが斥候に出て間もなくひどい吹雪となり、視界ゼロの状態が続いた。
予想した通り、3人は翌日になっても帰ってこなかった。大尉は3人の遭難を確信し、斥候に出したことを悔やんだ。ところが、3日目に3人は奇跡的に帰還してきた。
「軍曹、よく戻ってきたなあ!」
「はい、大尉。部下のおかげです。」
「部下のおかげ?」
「はい、部下の一人が山岳地図を持っていたのです。これです」
「どれどれ・・・、おい、これはピレネー山脈(スペイン・フランス国境の山脈)の地図だぞ。」
斥候に出た3人はピレネー山脈の地図をアルプスの地図だと信じ込んでいたのだ。
・・・
地図があったおかげで、遭難という非常事態においても、冷静に山の状態を観察することができたということが、無事に戻れた最大の理由かも知れない。しかし激しい吹雪の中で、力尽きることなく、演習場所目指して歩くことができたのは、「自分たちはどこに行けばいいかわかっている、だからきっと帰れる」という自己肯定であり確信だった。
そう、行動において重要なのは、将来はきっとこうなるという確信、あるいはこうしたいというビジョンを持ちつづけることなのである。
このエピソードは、宅配便事業を創造した大和運輸、あるいは警備事業を創造したセコムを思い出させる。両社とも、確固たる事業戦略があったわけではない。当該事業へのニーズは必ずある、だからきっと将来はうまくいく、という強い思い込みで行動し、結果として成功できたのである。
戦略不要といっても、行き当たりばったりではいけないのは当然だ。しょせん将来は精精緻には予測できないのだから、大きな方向感を持ち、未来そのものを自ら創造するくらいの意思を持つべきではないだろうか。このことは仕事だけでなく、個人の生き方でも同様だろう。
“人生は生き抜くに値するという信念が行為を呼び起こし、その行為によって人生は生き抜くに値するものになる”(James, W.)
自分自身の行動や人生の価値は、誰かに決めてもらうものではなく、自ら見出すものである。
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