経営管理の新しい手法として、「バランストスコアカード」(BSC)は本格的な展開期に入ったようだ。先行する欧米企業でも導入事例がますます増えているし、日本でも本腰を入れて取り組んでいる企業が多くなってきた。
BSCの特徴は、慶応大学教授、高橋俊介氏が最新著「組織改革」で指摘していたように、結果指標と先行指標を組み合わせているところにある。
つまり、結果としての「財務的な指標」とその結果の原因となる「オペレーション指標」、「顧客市場指標」、「組織社員指標」の3つの先行指標で企業経営をコントロールする。
もちろん、この4つの指標の全体的な方向性を示すものとして「ビジョン」と「戦略」が存在しなければならない。こうして、原因と結果の両方を整合性の取れた形で管理することで、ビジョンを具体的な行動に落とし込むことができる。
ここで、具体的な事例を紹介する。「アトム運輸」の取り組みである。同社は、コカコーラの製品を専門に取り扱っている運送会社である。
同社におけるBSCの4つの指標は次のように表現される。
―財務フォーカス
―オペレーションフォーカス
―カスタマーフォーカス
―人材開発フォーカス
なお、この4つの指標の方向付けの役割を果たす、「ミッション」が中心に位置する。
この枠組みをベースに実際の企業活動は次の流れで進められる。
ミッション(の確認)
↓
ゴール・戦略の決定
↓
年度目標
↓
コミュニケーション
↓
実施と運用への落とし込み
↓
定期的運用
↓
年度運用
上記の流れで、「コミュニケーション」とは現場にBSCの考え方を浸透させるための継続的な話し合いのことであり、「定期的な運用」とは4半期レベルでの現状のフィードバックを意味する。
上記「アトム運輸」の事例は、今年6月に行われたBSCセミナーでの同社社長の発表の内容をご紹介しているのだが、社長が強調していたのは、ミッション、つまり会社の使命、あるいは理念を現場に浸透させることだった。そのためにBSCが有効だと言う。
BSCを実際に運用してみると、やはり定性的な指標における評価の難しさ等の課題があるようだ。しかし、抽象的な表現とならざるを得ない「ビジョン」(ミッション)と実際の現場をつなぐ手法として、BSCの有効性は高いと言えるだろう。
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