Weekly Matsuoty 2002/01/29
執 念
 
 ある起業家の話をしたい。

 90年代前半、学習塾の講師として子供たちを教えていた彼は、塾で利用している学習用PCソフトの出来がどれもあまり良くないことに気付いた。つまらなくて、子供たちがすぐに投げ出してしまうのだ。

 「自分なら、子供たちが楽しく学べるソフトが作れる!」と考えた彼は、学習ソフト制作会社を興したいと強く願うようになった。

 「俺は、学習ソフトを作りたいんだ!」とうなされるように、繰り返し回りの人々に話す彼に対し、ついに「そこまで言うのならやってみなよ」と、飲み屋のマスターや飲み友達が資本金を出してくれた。

 ここまではよくある話だろう。彼の事業にかける執念のすごさをみるのは、資金繰りに行き詰まった時である。

 さて、いきごんで会社を始めたものの、やはりそう簡単には立ち上がらなかった。なかなか売れなかった。資金が底をついてくる。

 彼は、ベンチャーキャピタルなどに資金を仰ぎたくなかった。借金もいやだった。当時の事業環境と会社の財務状態を考えると、どちらにせよ資金を調達するのは厳しかったかも知れないが。

 そこで、彼は証券会社に出かけた。そして、株価ボードを眺めている、全く面識のない個人投資家と思われる人々に声をかけた。

「私の会社の株を買ってくれませんか」

 見ず知らずの男性から、得体の知れない会社の株の購入をいきなり依頼されて面食らわない人はいないだろう。おそらくほとんどの人が断ったに違いない。しかし、彼はあきらめなかった。自分の事業の夢を語り、賛同し、出資してくれる人を一人、二人と増やしていった。

 今、彼の会社は成長軌道に乗った。彼の夢は実現されつつある。

 私は、彼の事業にかける思いがうらやましいと思う。そこまでのめりこめるものを見つけられたことに対して・・・。

 「成功者とは、成功するまであきらめなかった人のこと」という言葉を地で行く彼に、心からの拍手を送りたい。
 
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