Weekly Matsuoty 2003/03/11
ビジョンへのコミットメント
 
デル・コンピュータは、徹底した顧客志向 の会社であることはよく知られている。

したがって、「顧客サポートにできる限り の投資をするのが、常に我々の目的です」 (デルコンピュータ社長、浜田宏氏)だと 言う。私自身、ユーザーとして、しばしば カスタマーサポートに電話をする機会があ るが、いつも丁寧な対応をしてくれる。

さて、浜田氏によれば、「顧客志向」は次 のような連鎖になる。

「顧客志向」
  ↓
「顧客サポートへの投資」
  ↓
「顧客の高い満足度」
  ↓
顧客の高いロイヤルティ」
  ↓
「高いリピートオーダー」
  ↓
「高いマーケットシェア」
「高い利益率」

そして、高いマーケットシェア、高い利益 率という、「企業の究極の数的目標」の達 成で生まれた資金をさらに「顧客サポート」 へと投じることによって、この連鎖は良循 環のサイクルとなる。

上記のことは、ごく当たり前のものに思え るのかも知れない。しかし、経営者の立場 に立てば、「企業の究極の数的目標」とは 直接リンクしない、「顧客サポート」に重 点投資を行うことを決断するのは勇気のい ることであることがわかると思う。目先は コストを垂れ流すだけに見えるからだ。 したがって、顧客サポートへの投資という 決断は、「顧客志向」というビジョン(こ れは信念と言い換えても良い)に対する強 烈なコミットメントが必要である。そして また、ビジョンを組織の末端まで浸透させ ための絶え間ない努力が求められる。

ところで、上記のサイクルの中で、「顧客 の高い満足度」「顧客の高いロイヤルティ」 は、「先行指標」と呼ぶことができる。 「高いリピートオーダー」という売上につ ながる指標に‘先行して’企業が達成しな ければならない指標という意味だ。

もし、企業のトップ、マネージャー層が、 「売上をあげろ」「利益を改善しろ」とし か言えないとしたら、彼らの存在意義はな い。そんなことは子供でも、ロボットでも 言える。そうではなくて、究極の目標達成 のためにどんなビジョンを示すのか、そし て、ビジョンに基づく行動をどのような先 行指標で測定しようとするのか、を明確化 するのが組織を運営するトップ・管理者層 の役割である。(残念ながら、これができ ている企業は極めて少ないようだ)

言うまでもないことだが、「売上をあげさ えすれば良い」のであれば、非合法なやり かたを含め、てっとりばやく儲ける方法は それなりにある。しかし、社会に属する一 要員として、なんらかの価値を提供するこ とによって売上を確保し、存続する企業を 目指すのであれば、ビジョンにコミットし、 先行指標の達成を重視することが不可欠 だろう。

*今回は、日経ビジネス(2003.3.10)の 記事、および、高橋俊介氏(慶應義塾大学 教授)のお話をヒントにしました。
 
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