革新的な製品を次々と世に出してきた、日本
を代表する企業に勤める友人の話を聞くと、
大企業化した今、新規事業について「確実に
儲かるか」という、私に言わせれば不毛な議
論が繰り返されることが多いらしい。
誰も表立っては言わないが、どんなに厳密に
やったとしても、将来予測が当たることはほ
とんどない。まして、過去の経験値のない新
規分野において、確実な収益を得られるかど
うかを証明するのは不可能である。なぜなら
ば、将来には、どうころぶのか予測しきれな
い不確実な要因が山ほどあるからである。
しかし、本来、ビジネスとは、不確実な要因
をリスクとして受け入れつつ、利益につなが
ることを期待して、戻ってこないかも知れな
い資源を投入する行為ではないか。すなわち、
固い言葉で言えば「投資」であり、平たく言
えば、「ギャンブル」である。そして、ビジ
ネスをやる人は、「ギャンブラー」であると
言えるだろう。
ただ、注意して欲しいことがある。それは、
「真のギャンブラー」でなければならないと
いう点だ。真のギャンブラーは、ギャンブル
のコンセプトを理解した上でビジネスを展開
するのである。
さて、ビジネスにも通じるギャンブルのコン
セプトとしては、次の5点が挙げられる。
1 自己の財産を使用する
本人のリスクでやるということである。
2 儲けることを目的としている
無目的ではないということだ。
3 計算された利益とリスクを持つ
確率論的な計算に基づく利益とリスクがある。
4 利益とリスクについては偶然性がある
つまり、確実に結果は予測できないというこ
とである。
5 結果に対する責任は本人が取る
失敗した結果を他人に転嫁しないということ
だ。
こうした、ギャンブルのコンセプトを理解し
つつ、事業の成功に向けて邁進できる人こそ
が、「起業家」と呼ばれる。そして、こうし
た起業家たちが、新たなビジネスを生みだし、
社会・経済を変革していくことができるので
ある。
一方、ギャンブルのコンセプトを理解せずに
ビジネスを推進する人は、「空想的泡沫人」
と呼ばれ、例えば、80年代後半のバブルや、
ネットバブルに翻弄された人々である。その
結果、自己破産に至った人は、まだ自己責任
を果たしているが、大企業になると銀行や国
が救済し、最終的には、国民が彼らの失敗の
尻拭いをするという構図になっている。
こうした現状を考えると、ビジネス教育の一
環として、「正しいギャンブルのやり方」を
教えるのを必須にした方がいいのではないか
と感じる。
実際、ギャンブルがうまい人は、ビジネスも
うまいのである。(金儲けだけが事業の最終
ゴールであるのは望ましくないと思うが)
*本稿は、「ビジネスに生かすギャンブルの
鉄則」(谷岡一郎著、日本経済新聞社)など
を参考にしました。
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