Weekly Matsuoty 2000/03/06
P/L型顧客開発
 
 Profit Loss Statement(損益計算書)を略してP/Lと書く。P/Lは1年間の売上と費用を示したもので、「いくら儲かったか(あるいは損したか)」を知ることが作成の目的である。企業によっては、4半期毎、あるいは月毎にP/Lを作成して、きめこまかい収益管理を行うところもある。

 P/LはB/S(Balance Sheet:貸借対照表)と並んで、企業経営の重要な管理手法であるが、一つ落とし穴がある。それは「短期的思考」に 陥りやすいということである。概ね従業員の評価および報酬が、P/Lに基づく当該年度の利益によって決定されるため、とにかく目先の売上・利益をあげることにしゃかりきになってしまうのである。

 中高生のように気まぐれで入れ替わりが激しい層をターゲットとし、商品の寿命も短い、菓子類のメーカーであれば、短期的思考に基づいて行動するのはやむを得ない面もある。

 しかし、固定客・継続購入客、またそういった優良顧客からの紹介新規客による収益が大きな割合を占める企業、主に耐久消費財メーカーやサービス企業までもが、目先の売上を追うことを強いるような企業システムを相変わらず維持しているのにはおおきな疑問を感じる。

 P/Lの呪縛下での顧客開発は、「顧客使い捨て」である。とにかく、お金さえ払ってくれれば、後はどうでもいい。こんなやり方だと、たいてい利益を犠牲にしても、まず売上となり、利益率は低下する。顧客との継続的な関係を維持する気はなく、「これっきり」の取引を毎年繰り返す。その本質は「押し売り」と変わらない。そして、客から金に出させるために使ったお金は単なる費用として計上されるだけである。

 ところで、企業が新規事業へのりだす際、事業計画書を作成するが、そこには必ず3−5年の事業収益見込みが示される。この事業収益見込みの中で投じられる事業資金は投資資金として扱われ、単年度での評価ではなく、3−5年程度の長期におけるROI(Return On Investment:投資収益率)で評価される。なぜなら事業自体が、少なくとも数年間にわたって収益を生み出す資産とみなされるからだ。

 では、今度は自社の「顧客」の実態を見てみよう。多少の入れ替わりはあるにせよ、数年間、あるいは数十年間にわたって取引を継続してくれる顧客が大きなシェアを占めているはずである。とすると、顧客とは、使い捨てるにはもったいない、重要な資産として捉えるべきではないか? P/Lではなく、ROIで顧客を見るべきなのである。

 ただし、P/L型からROI型の顧客開発に切り替えること、この実現は容易ではない。CRMの方法論をベースとする企業システム全体の見直しが必要である。特に顧客資産の創造、維持への寄与度に応じた人事評価システムの確立が鍵となるだろう。

 顧客を資産としてとらえるのがCRMの基本思想なのだが、CRMとはマーケティングやコールセンター、データマイニングといったものだけではないのである。
 
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