通常マーケティングというと、テレビコマーシャルや新聞・雑誌といったマス媒体を活用した「ブランディング」を連想することが多いと思う。
ブランディングの目的、あるいは役割は、前回に述べた「態度変容」であり、要は当該商品を好きになってもらうことだ。そのためにまずは商品名を知ってもらうこと、商品の特徴を理解してもらうことから初めて、さらに他社製品と明確に違いを感じてもらえる当該商品固有の「ブランドイメージ」の構築をさまざまなコミュニケーションを通じて図る。
このブランディングという、いわばマーケティングの王道であるコミュニケーションテクニックは、過去数十年間にわたって様々な試みがなされ、手法としてほぼ確立された、といっていいだろう。
ところが、ブランドの構成要素は実はイメージだけではなく、もうひとつ、「エクスペリエンス(経験)」があるのだが、このエクスペリエンスの設計・構築テクニックについてはまったく確立されていないのが現実である。
「ブランドイメージ」と車の両輪をなす「ブランドエクスペリエンス」は、まさに当該商品と出会い、触れ、試し、あるいは実際に購入して利用する、という実体験を通じて形成される商品に対する認識である。
ブランディングを通じて構築された「ブランドイメージ」は、あくまでコミュニケーションを通じて消費者の心の中に築かれた認識であり、実体を伴わない「期待感」であるといえる。
もし、ブランディングに成功し、非常に高い期待感を持った消費者が、当該商品を実際に使ってみたけど、期待外れもいいところ、と思われてしまうような機能、あるいは品質だったらどうなるか。極めて高い顧客不満足を生み出してしまうのである。なぜなら、顧客満足度は「利用後評価−期待」の公式で導かれるのだが、期待が高いだけに現実の評価が低いとその落差がことさら大きくなってしまうからである。
だから、私が以前から一貫して主張しているように、「ブランドイメージ」と「ブランドエクスペリエンス」は整合性がとれてなければいけないのである。もし、期待を裏切らない実体験を提供できないのであれば、ブランディングをやるべきではないと言ってもいい。
ここで、ブランドエクスペリエンスを構築する手法が確立されていないという点が大きな問題となってくる。手法が確立されていない理由は、単にコミュニケーションの問題ではなく、商品・サービス開発という部分に深く関わってくるため、あまりマーケティングの領域でカバーされてこなかったからである。
しかし、確立されていないからといって、現状に流され膨大なブランディング予算をどぶに捨てるようなことをするわけにはいかない。
少なくとも、企業内にブランドイメージ構築を主目的とするマーケティング担当者に加えて、ブランドエクスペリエンス構築を主目的とする担当者、すなわち「エクスペリエンス・マーケティング・マネジャー」を任命すべきである。エクスペリエンス・マーケティング・マネジャーは、ブランディング担当者と連携し、自社が提供できるエクスペリエンスと乖離したブランドイメージにならないか、をチェックすると同時に、形成されるブランドイメージに合致したエクスペリエンスが提供できるよう、商品やサービス改善の指揮を取っていくことになる。
ともあれ、これからはもっともっとブランド・エクスペリエンスを重視しなければならない。なぜなら、真の顧客ロイヤルティはブランドエクスペリエンスを通じてしか獲得できないからである。
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