Weekly Matsuoty 2000/05/31
ロイヤルティの幻想
 
 ロイヤルティ・マーケティングの成功例として有名な、英国大手スーパー、セーフウェイのポイントカード「ABCカード」が廃止される。理由は、新規加入者が減少し、顧客がポイント集めに飽きたから、と判断したためである。

 総発行枚数900万枚、アクティブユーザー600万人という規模を誇るにもかかわらず、ポイントカード廃止に踏み切るのは、「ロイヤルティ・プログラムは顧客ロイヤルティ獲得に有効である」という幻想が壊れつつあることの象徴であろう。

 ロイヤルティプログラムとは、端的には優良顧客に対して、おまけをつけたり、ポイントに応じた景品を提供することによって、いわゆる、「8割の利益」を生み出す「2割の顧客」を大切にする、ということを目的として実施されるマーケティング施策である。

 優良顧客を大切にする、という発想自体は間違っていない。企業活動とは、究極的には「顧客資産」を獲得するための投資行動であり、資産価値の高い「優良顧客」に対して重点的な投資を行うべきなのである。

 問題は、優良顧客を囲い込むための施策としての既存のロイヤルティ・プログラムは、しょせん子供だましであったことだ。

なぜか?

 金さえ積めば簡単に実現できるおまけやポイントシステムは、そのような付帯的な特典目当ての顧客しか集めることができないからだ。まさに子供向け菓子のおまけと同レベルである。

 人は、おまけがあるからという理由だけで、商品・サービスを購入するのではない。まずは、商品・サービス自体が提供する便益を通じたニーズの充足、そしてまた満足を得ることが購入目的である。たとえ、どんなに魅力的なおまけがあったとしても、どうしようもない商品であれば、何度も購入する気はしないだろう。購入の第一の目的であるニーズの充足が果たされないからだ。

 そもそもロイヤルティ獲得の目的は反復購入であるから、商品自体が優れたものでなければ、どんなロイヤルティ・プログラムも無意味なのである。

 だからこそ、実は「One to Oneマーケティング」の本質やその重要性がもっと認識されるべきである。

 One to Oneマーケティングの原理は単純である。個々人のニーズを細かく聞き、それに合致した商品・サービスをカスタマイズして提供する。そうすれば、おまけやポイントシステムでは提供できない、深い顧客満足を与えることができる。そしてこのようなきめ細かい対応が、顧客のロイヤルティを高めてくれる。

 ロイヤルティ・プログラムを完全に否定するつもりはないが、ロイヤルティは商品・サービス自体から生まれるのであり、決して付帯的な特典から生まれるのではない、ということを忘れてはいけない。
 
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