残業で夜12時までやってへとへとなのに、だからこそかも知れないが、それから居酒屋に行く。まずはビールということで、自分の好き「スーパードライ」を頼もうと思ったら、「すいません、うちはキリンしかおいてないんです。」と言われてしまった。「まあ、いいか」とちょっとがっかりしつつその店においてある銘柄で我慢することにする。次の日も遅くなり、また飲みたくなったので、昨晩と同じ店に行く。あまり遅い時間だと開いてる店がないから仕方がない。ビールはキリンしか置いてないのを思い出すが、「まあ、いいや」と思ってキリンを頼む。
いつしか、この店ではキリンを飲むのが当たり前となり、当初は多少ともあった不満を感じることはなくなってしまう。人間、不快感というものからはなるべく逃げたいという本能があるから、感覚自体をいわばまひさせてしまうのである。
意識しなくなったが、実は自分が我慢しているだけ、という状況を「顧客我慢」という。
この「顧客我慢」の状況は至るところに見られる。午後3時で閉まる銀行窓口、土日に営業しない役所、なんのためにやってるのかよくわからない道路工事等、どちらかと言えば、「顧客」という意識の弱い、公共機関や独占企業に「顧客我慢」を強いるところが多い。
さて、顧客我慢について問題なのは、「顧客満足度調査」を実施した場合に、顧客我慢を強いているという問題が明確にならない、ということである。なぜなら、製品・サービスを提供する事業者側にとっても、顧客我慢を強いている状況は所与の条件であるために、調査票に入れることさえ思い付かないからである。顧客側も、長い間我慢してきたためにそれが当たり前だと思っており、あえて問題点として取り上げることが少ないからである。
かくして、顧客満足度90%達成! とか自慢げに話したとしても、そもそも本来は不満足要因として上がってくるべき要素を「顧客我慢」を強いることによって水面下に止めているのが現実だ。
顧客満足度の高さに安心して、本質的な品質向上やサービス改善に怠っている企業をあっと言う間に出し抜く企業があるとしたら、それは「顧客我慢」を見抜くことのできた企業である。
「顧客我慢調査」が必要である。「満足度調査」だけでは足りない。
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