Weekly Matsuoty 2000/09/19
アイデア・エイジェンシー
 
 大手広告会社サーチ&サーチのケビン・ロバーツ会長はインタビュー*の中でこう言う。

 「・・・広告主のコミュニケーション上の問題点を解決するアイデアを創造し、提案することが広告会社の生命である。マーケティングもクリエイティブもメディアプランニングもPRもアイデアを実現する手段に過ぎない。・・・」

 ツール自体が売り物になる時期、過去数年のインターネットがそうだった。技術革新、応用技術開発のスピードがあまりに早いため、ツールの使い方を教授するだけでお金がもらえたのだ。

 しかし、もはや革命的と言えるような新しいインターネット技術は出尽くしたし、クライアントにとっても日常的なツールとなり、いまさら使い方を学びたいという企業は既にIT革命時代の負け組である。

 インターネットの世界においても、それをどう使うかではなく、それを使ってどんなアイデアを伝えるのか、あるいは実現するのか、という段階に移った。

 ロバーツ会長は、広告会社の将来像として、「アイデア・エージェンシー」、すなわち広告会社の生命であるアイデアが最も重要であることを再認識させてくれたが、これは広告会社にとどまらない。

 すでにあらゆるツールが揃っている。どうやれば実現するか、というノウハウもある。人材も以前に比べたらはるかに優秀な人たちが確保できる。あと足りないのは消費者の心をつかむことのできるビッグアイデアだけだ。

 一般の事業会社、ベンチャー企業においても、もはや優れたアイデアが、成功のための必須条件である。

 ロバーツ会長は同インタビューの中でこのようにも述べている。

 「広告がサイエンスであった時代は終わった。これからの広告は、消費者の心と企業のブランドを一生涯に渡って結ぶ、恋愛関係をつくることだ。広告会社が創造し、提供するアイディアは、より人間に近いエモーショナルで感性的なものでなくてはならない。」

 彼が言っていることは、CRM - Customer Relationship Management - の目的にほかならない。データベース、データウエアハウス、データマイニング、ナレッジマネジメント、eCRMといった言葉に踊らされてはいけない。これらの無機的なツールをうまく利用して「心」「思い」を伝えることができる企業が真のCRM実践企業となることができる。

 CRM実践企業は、「心」、「思い」を伝えるアイデア・カンパニーである。

*(出典)
 宣伝会議10月号 ニューヨークから東京へ「2005年の広告会社」を参照されたい。
 
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