Weekly Matsuoty 2001/01/23
Eメールマーケティング:徳川家康スタイル
 
 よく考えてみると、「キャンペーン」と一般に呼ばれるマーケティングプログラムは、まことに企業の都合だけを押しつける身勝手なプログラムである。

 通常、今期の売上アップを目的として3ヶ月程度のキャンペーン期間を設定する。その期間中に、まずプレゼント等をえさに見込客リストを獲得し、その見込客に対して何段階かのコミュニケーションを行い、有望見込客を絞り込み、購入へと向かわせるための様々な働きかけを行う。

 身勝手だ、と思うのは、キャンペーン対象となった商品を買う意思は持っているにもかかわらず、たまたまその期間中は、まだ買い換え時期ではないとか、お金が足りないとかの理由で購入しない「有望見込客」に対して、しばしば強引な売り込みに至って不快感を味あわせたり、キャンペーンが終了したとたん、それまで獲得した見込客リストは、購入客を除いて引き出しの奥深くにしまいこまれ、「これまでの熱心な売り込みは本気だったの?」と思わせるほどあっけなく、顧客へのアプローチをやめてしまう点だ。

 そもそも「プロモーション」施策のひとつであるキャンペーンは、購入に即結びつけるためのマーケティング施策であり、ターゲット顧客の適切な購入時期を事前に予測することが困難である以上、企業側が顧客にアプローチする時期を勝手に決めるしかないのが現実である。また、コスト的にもこれまで購入確率が低いと判断された見込客にいつまでも接触を続けるのは困難だった。

 とはいえ、このような身勝手なやりかたは、顧客との長期的な関係づくりを重視するCRMの視点からは、決して好ましいものではない。

 ただ、幸いなことに、今、我々はこの問題を解決する強力なコミュニケーションツールを手に入れた。「Eメール」である。

「Eメール」の最大の利点は言うまでもなく、低コスト性であるが、このメリットを活かして逆転の発想をすることができる。それは、見込客の適切な購入時期が予測できないのであれば、ともかく見込客(と想定される客)と継続的にコミュニケーションを続けておき、彼らが買う気になるまで気長に待つ、というやり方である。まさに「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」、Eメールマーケティングの徳川家康スタイルである言えるだろう。

 この考え方は、私が広告代理店にいたころ、同僚が半分冗談ぽく名づけていた、「生け簀戦略」にヒントを得ている。顧客をがっちりと囲い込むのはなく、生け簀の中で「ゆるく」囲い込んでおき、適切な大きさまで育った(すなわち購入するタイミングにきた)顧客を随時釣り上げる、というイメージである。ただ、顧客に対して、「生け簀戦略」というのはあまりにも失礼なので、「徳川家康スタイル」と勝手に名称変更してみた次第である。(^_^)

 さて「Eメールマーケティング:徳川家康スタイル」において最も重要なことは、どんな内容を届けるのかという点である。「売らんかな」の下心丸見えの商品情報を毎週、あるいは毎月送り続けても顧客は喜ばない。必ずしも自社製品と密接に関連していない広いテーマの中からの選択でいいので、見込客が喜ぶ、言いかえると、価値のある内容を提供する必要がある。

 具体例で説明しよう。

 転職サイトを運営するエン・ジャパンのメールマガジン「[en] Career News 」には、求人情報は出てこない。おそらくビジネスパーソンならほとんどの人が興味を持つと思われる「転職の法則」と「BOOK REVIEW」で構成される、‘価値ある’内容を毎週、すでに数年にわたって送りつづけている。この価値あるメールコンテンツを武器に、現在は約8万人の読者、すなわち転職予備軍との継続的なコミュニケーションを続けているのである。

 他の転職サイトが、「まあ、まだしばらくは転職する気はないけど、いつかは転職しようかな」程度の人に対しても、求人情報の長々としたリストだけしか掲載されていないEメールを毎週しつこく送付してくるのと比較してみて欲しい。すぐには見えてこない定性的な効果ではあるが、長期的には、ブランドイメージ形成や業績向上にかなりの差が出てくることが、容易に想像できるだろう。

 先日のEメールマーケティングフォーラムで、メール配信をアウトソースした場合の概算見積のモデルケースが紹介されていたが、5万人に毎月1回Eメールを送付した場合の6ヶ月のトータルコストは800万円だった。顧客一人あたりのリテンションコストはわずか「160円」である。郵政省メールの1回分にも満たない金額で、5万人の顧客と6ヶ月間、コミュニケーションを継続することができるのである。

 プロモーション(だけ)ではなく、リレーションづくりのために、Eメールが最高のツールであることは間違いない。
 
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