Weekly Matsuoty 2001/04/23
にわかリサーチャーの来襲!?
 
 最近どうも納得の行かない調査が増えてきたように感じる。例えば、経済産業省がアクセンチュアに委託したEC市場の推計やIDCのインターネットユーザ人口の推計結果などだ。

 アクセンチュアがやったEC市場の推計は、彼らなりの定義に沿ったものであるから、まあそれはそれで良いとして、IDCの方は、PCユーザとモバイルユーザの重複を無視して単純に合計しているものだから、ネットユーザ6千万人強という、とんでもない数字になっている。過大推計気味の通信白書でさえ、3千万人弱だと言うのに。おそらく、最も実態に近い数字だと思われるネットレーティングスの最新の調査では2千5百万人強である。

 かと思えば、調査結果の生データをある取引先内部で集計してグラフ化したものを見せてもらったら、複数回答だから、横棒グラフ(クシ状のグラフ)あたりで作成すべきものを無理やり合計100%になるように計算しなおして、円グラフを作成してあった。

 このような現象は、調査・統計の基礎的知識に欠ける“にわかリサーチャー”があちこちに大量発生していることを示すものではないかと危惧している。そして、これらの“にわかリサーチャー”を生むきっかけは、おそらく「インターネットリサーチ」の普及だ。

 ところで、従来型リサーチの費用構造がどんなものかご存知だろうか。調査の3段階のフェイズ、すなわち、「調査設計」「実査」「集計/報告書作成」別に示すと、総費用1千万円程度の場合こうなる。

  調査設計・・・50万円〜100万円
  実査・・・700〜800万円
  集計・報告書作成・・・100〜150万円

 調査会社によって多少の違いがあるのだが、ここで注目してほしい点は、「実査」費用が全体の8割程度を占めるということだ。

 しかし、インターネットリサーチは、この「実査」部分の費用を数分の一に引き下げてしまった。これまで1千万円の調査は、インターネット調査では総費用200−300万円で可能になった。つまり、以前よりお手軽に調査ができるようになったのである。例えば、100人程度の小規模調査なら、あるインターネットリサーチ会社では5万円で済む。

 その結果、猫も杓子も調査、調査で、巷には多種多様のりサーチが溢れだしているのだが、問題は、このような調査件数の増大に追いつけないリサーチャーの不足である。しかたなく、これまで調査などやったこともない人間が勝手な思い込みで適当に調査票を設計し、Excelで適当に集計し、体裁だけは立派な報告書にまとめあげる。報告書を見る人間もデータを見る眼を持っている人間はそう多くないから、信頼性に欠けているかもしれない生データや間違った集計に基づく、誤った分析結果に気付かない。多くの企業は、調査結果を拠り所として、重大な投資案件等を決定するから、にわかリサーチャーが引き起こす影響は軽微なものでは済まないはずだ。

 繰り返すが、こういった状況を引き起こすきっかけは、インターネットリサーチにあると思っている。しかし、インターネットリサーチを責めるのはお門違いであることもわかっている。信頼性の高い生データを集めることのできる、明確な仮説に基づく調査設計力と、生データの問題点や制約を踏まえた上での集計・分析力を持つリサーチャーの不足が問題なのだ。

 このままでは「調査」というもの自体に対する不信感が高まることは間違いない。“にわかリサーチャー”の来襲を指をくわえてただあきれて見ている場合ではない。調査業界全体の取り組みとしての、なんらかの対応策が必要ではないだろうか?
 
close