Weekly Matsuoty 2001/06/05
ニーズと価値観
 
 我々の毎日は、ニーズ(欲求)を充足することで動機付けられている。

 「寝たい」「食べたい」「XXXしたい」といった生物としての原始的なレベルから「愛されたい」「認められたい」といった社会的なものまで、様々な自分のニーズを満たすために行動を起こす。

 いったんニーズが満たされれば、とりあえずそのニーズは消える。しかしまた、新たなニーズ(より高度な、あるいは繰り返されるニーズ)が発生するので、再びその充足に向けて行動を起こす。

   極めて単純な見方だが、「生きること」ととは、「ニーズを充足するプロセス」だと思う。充足された状態、すなわちゴールを目指しはするが、ゴール自体は通過点に過ぎず、あまり意味を持たない。

 大事なのは、あくまで「ニーズを充足するプロセス」である。これが自分にとってしっくりくるかどうか、納得できるものであるかどうか、が貴方の人生の充実度を左右する。そして、それを決めるのが貴方の「価値観」との合致度である。

 さて、貴方自身の「ニーズを充足するプロセス」(言いかえると、毎日の生活や仕事)があなたの価値観に合っているのかどうかを調べるのは、簡単である。それをやっている時、「楽しい」あるいは「面白い」と感じているかどうかで判断すればいい。

 例えば、「お金を稼ぎたい」「外車に乗りたい」といった理由(ニーズ)で高収入の為替ディーラーになったとする。寝る時間もないようなハードワークに耐えてトップディーラーの地位を手に入れ、高額のボーナスでベンツを購入した。こうして、確かにニーズは満たされたが、果たしてそのプロセスは楽しいものだったのかと振り返った時、愕然とする人がいる。「いったい俺の人生は何だったんだ」と。そんな人は、高収入を得るという達成感で、「実は楽しくない」という本音を覆い隠していたのである。

 不思議なことに、「ニーズを充足するプロセス」が楽しいかどうかを重視する見方は、多くの人々が同時に唱え始めている。LINUXの開発者、リーナス・トーバルズ氏、LINUX革命という本で、楽しみのために仕事をする、というハッカー倫理を打ち出した、ペッカ・ヒネマン氏、グロービスの「キャリアを考える技術・つくる技術」の共著者たち、など。

 ともあれ、ニーズを満たすためのプロセスが自分の価値観に合っているかどうか、一度じっくり考えてみて欲しい。ゴールが何であれ、そこに到達するまでのプロセス(その繰り返し)が、生きることなのだから。
 
close