「シグナリング」とは、消費者に、自社製品・サービスの品質等が信頼に足るものであることを理解・認識してもらうため、客観的な情報や根拠を示すことである。
例えば、「100%返品保証」とうたうことで、言外にそれだけ自社製品に自信がありますよ、品質に問題はないですよ、という点を消費者に伝えていることになる。
ここで、製品の信頼性を理解・認識させるというと、それは「ブランディング」のことではないのか、と考える方も多いだろう。
確かに、「ブランド」には品質の保証機能がある。「トヨタ」の車なら故障が少ないだろう、「ルイ・ヴィトン」のバッグには間違いがない、と誰もが考えるのは、ブランド名が優れた品質の代名詞であり、消費者は、信頼できるかどうかをブランドで判断しているからである。
ただ、ブランドとは、ある程度の長期間にわたって優れた製品・サービスを提供してきた結果、じっくりと醸成されるものである。ブランド論の第一人者の片平秀貴教授によると、ブランディングとは、消費者の心の中に「預金口座」を作るようなものだそうだ。そこにあるブランドについてのイメージ、エクスペリエンスが少しずつ貯まっていく。たくさん良いイメージ、エクスペリエンスが貯まったブランドほど、パワーブランドというわけだ。
こう考えると、「シグナリング」は「ブランディング」とは異なる。「シグナリング」とは、もっと即効性のある方法である。「100%返品保証」であれば、消費者としては実質リスクがゼロになる。(返品する手間・時間はあるとしても)したがって、ブランド力のない製品でも売れる可能性を高める。
もちろん「シグナリング」と「ブランディング」の両方が合わされば、さらに当該製品やサービスは強力なものになる。
ところで、受験生が一流大学を目指すのは、労働の売り手として、自分が優秀であることを示す「シグナリング」のためだと言う。在学中の公的資格の取得も同様だ。
確かに、就職面接において、採用側の企業は初めて個々の学生に会うわけで、客観的な情報である学校名や取得資格を採用の拠り所のひとつにせざるを得ない。だから、シグナリングが有効になる。
しかし、インターンの実習期間中に実績を示した学生は、企業もよくその学生のことをよく知っており、いわばその学生のブランドが確立されているので、学校や資格はあまり考慮されない。(「一流大学名」といった、客観的な情報は、必ずしも、その学生のビジネスパーソンとしてのポテンシャルを正確に反映しているとは限らないからだ)
「シグナリング」はもともと経済学の用語であり、マーケティングの世界ではほとんど使われることがないが、この言葉でマーケティングを斬ってみるといろいろと面白いアイディアが出てきそうだ。
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