いまさら説明するまでもないかもしれないが、「シーズ」とは、自社が持つ技術や資源、言い換えると「企業ができること・やりたいこと」であり、「ニーズ」とは、顧客の欲求、つまり、「顧客が求めていること」である。
そして、以前から言われてきたのが、シーズ思考ではなく、ニーズ思考で商品開発をすべきであるということだ。企業の勝手な思い込みで商品を開発しても売れるわけがない、ということだ。
確かに、顧客起点のマーケティング全盛の今、この指摘は、一見、ますます妥当性を増しているように思える。
しかし、現実はまるで違う。綿密なニーズ調査に基づき、また充分なテストを行ったにも関わらず、まるで売れなかった新商品が死屍累々の山を築いている。一方で、自分がやりたかったというだけの思い込み・ひとりよがりな商品が爆発的なヒットになるケースがある。
商品開発は、端的に言い切ってしまうと「賭け」であり「水もの」である。100%成功が確信できる商品を開発することはできない。どんなに実験室でテストを繰り返そうが、実際に世の中に出してみるまでは、本当に顧客の求めていた商品であるかどうか、ということに対する答えはわからない。
それでも、こんな不確実性の高い商品開発で成功率を高める方法はあるのだろうか?
この質問に対する完璧な答えはないが、ひとつ言えるのは、その商品の成功を信じて、全身全霊を傾けて開発・販売を行うということである。これはまさに「シーズ思考」である。
「自分が売れると思ったら売れる」という強い思い込みが商品の成功率を高める。とことん粘る、絶対にあきらめないことが大事なのだ。(もちろん、成功率10割にはならないから、いつかは売れない商品の撤退が経営層から指示されることにはなるのだが)
顧客調査が有効なのは、主として既存の製品・サービスの改善についてであることを認識すべきであろう。新商品開発は、現状の延長の意見しか出てこない顧客調査だけでは不十分だと言うことだ。顧客ニーズを知ろうとするプロセスも欠かせないのだが、それ以上に、企業側担当者の強い思い入れ、強烈な成功の確信がなければならない。
自動車王ヘンリーフォードはこんな言葉を残している。
「できると判断しようが、できないと判断しようが、どちらも正しい」
無給油ノンストップ世界一周旅行に初めて成功した飛行機を開発した、バート・ルータンは技師たちにこう言っていたという。
「根拠のない自身を大切にせよ」
*ヒントにした文献
「創造性を育てる「常識破り」のマネジメント」 (ロバート I, サットン、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2002年1月号収録)
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