Weekly Matsuoty 2003/02/11
解釈力
 
この2−3年、キャリアの問題に取り組んでき た。その目的は、一言でいえば、「幸せな キャリアや人生を送るためには、どのような 考え方、計画、行動が必要なのか」というこ とである。

一方、科学的・分析的なアプローチが主流の 現在のマーケティングの枠組には収まらない 様々なマーケティングの考え方や手法、すな わち‘ポストモダン・マーケティング’につ いても並行して研究してきた。

そして、少なくとも現時点では、キャリアの 問題も、ポストモダン・マーケティングも、 その本質は、ほぼ共通していると考えている。

両者に共通していること、それは、自分が見 たこと、知ったこと、経験したことをどれだ け深く「解釈」できるか、が重要であるとい う点だ。

「解釈」とは、別の言い方をすれば、自分が 見聞きした、あるいは体験した事象やデータ から「独自の意味」を見出すことである。そ れは、当然ながら極めて主観的なものだ。よ く例として挙げられるが、半分だけ水が入って いるコップを見て、「半分しか入っていない」 と考えるか、それとも「半分も入っている」 と考えるか、というのは、本人の意味づけ、 つまり見方次第である。

実は、キャリアにおいては、過去の仕事の意 味、そしてこれから取り組む仕事の意味を自 分なりに明確化し、納得できた時、仕事の意 義や喜び、充実感を得ることができる。つま り、キャリアとは、仕事や人生に対する意味 づけ作業なのである。

また、分析的なマーケティングでは見えてこ ない、気まぐれな消費者のニーズは、人間心 理に深く分け入り、多くの人の共感を得られ るような、新たな切り口=意味を発見するこ とで充足させることができる。つまり、‘ポ ストモダン・マーケティング’とは、消費者 の購買行動や消費経験を深く読むことを通じ た、新たな意味の生成方法である。

おそらく、同じ事象・情報・データから、無 限の意味をつむぎ出すことのできる「解釈力」 は、人間だけが持つことのできる能力である。 たとえどんなに、コンピュータが進歩したと しても、「解釈力」では決して人にかなうこ とはないだろう。逆に言えば、「解釈力」は これからのビジネスパーソンにとっては、よ り一層重要になってくるスキルではないかと 思う。

さて、ここで気になるのは、ではどうやって 「解釈力」を磨いたらいいのか、ということ である。これについては、まだまだ勉強不足 であり、現時点ではうまくお伝えすることは できない。

ただ、こうしたことは机上の空論ではない。 なぜなら、すでに経営の分野では、一部実践 されていることだからだ。それは、ビジネス スクールが採用している「ケース・メソッド」 のことである。

「ケース・メソッド」では、ある企業の事例 に対し、受講生それぞれが自分なりの解釈を 行う。そしてお互いの議論を通じて解釈を深 めていく。「ケース・メソッド」には正しい 答えはない。つまり、誰かが正しく、誰かが 間違っているという結論は出さない。つまり、 「ケース・メソッド」では、まさしく、同じ 情報・データから、多様な意味を紡ぎ出す解 釈力を磨いているのである。

今回はやや抽象的になってしまったが、次回 以降、まずは‘ポストモダン・マーケティン グ’的な視点について、それがどんなものな のか、詳細に、またなるべくわかりやすく書 いていきたいと考えている。
 
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