Weekly Matsuoty 2003/04/01
ケース - ブランドを作ること、守ること
 
英国に展開した「ユニクロ」は、現在営業 中の21店舗のうち、約八割の16店舗を今夏 までに閉める予定である。英国進出は2001 年9月であり、わずか1年半での大きな戦略 転換ということになる。

このような不振の最大の要因は、ライバル のGAPよりは安いものの平凡な商品の品揃 え、日本のアルバイトと比較して大きく劣 る店員の質、といったことのようだ。

しかし、そもそもの間違いは、急速な店舗 展開において欠けているブランド力を大量 の広告で実現しようとしたことであろう。

広告で伝えられることは、ブランドの約束 だけである。

「フィル・ザ・ギャップ」
(ギャップを埋めろ)

英国では、こんなコピーでユニクロのブラ ンドが約束する「違い」を広告で訴えた。 ところが、こうしたブランドの約束に釣ら れて実際に店舗を訪れた顧客は、残念なが らその約束が裏切られるようなブランド体 験をする。つまり、ブランドの約束とブラ ンドの体験との間に、ギャップが生じてし まった。

結果として、店前通行者数が多く、それな りに来店客を確保できる都心店はまあまあ だが、ユニクロを目指してやってくる客を 獲得しなければならない郊外店は、不振が 続くことになる。

このケースは、「ブランドを作ること」に 失敗した典型的な事例である。考えてみれ ば、ユニクロの飛躍のきっかけとなった原 宿の旗艦店舗の開店は、数多くの媒体が記 事として取り上げ、ユニクロの知名度、ブ ランドイメージ向上に大いに寄与した。

つまり、日本においてユニクロのブランド 作りにはPR(広報)が大きな役割を果た していたのである。もちろん、英国でもPR 戦略は展開したのだろうが、短期的な結果 を求めて広告を集中投下するのはダメな戦 略であることを彼らは知らなかったのだろ うか?

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一方、バッグ専門店「キタムラ」は、ブラ ンドを守ることに失敗したケースである。

横浜・元町の「キタムラ」は、1882年創業 の老舗ブランドだ。「K」のマーク入りの オリジナルバッグは、横浜トラディショナ ル(ハマトラ)ブームにのり、当時の20− 30代の女性に大流行した。

「キタムラ」ブランド凋落の原因は、時代 に合ったデザインを取り入れず、既存顧客 に安住してしまったことにある。その結果、 自明の理ながら、既存顧客と伴に老齢化し、 中高年向け弱小ブランドに成り下がった。

さて、キタムラと異なり、ロングセラー商 品として命脈を保ってきたブランドは、伝 統にあぐらをかくことなく、常に時代に合 わせて変化させてきていることはご存知だ ろうか。

今日、最も成功したブランドと言える「ル イ・ヴィトン」は、‘伝統と革新’という キーワードで、ブランドを維持するコツを 説く。ちなみに、ルイ・ヴィトンのホーム ページを見ていただきたい。

http://www.vuitton.com/

モデルの前に置かれた「モノグラム・マル チカラー」。これまでのイメージを覆すよ うない色使いだが、これも紛れもなくルイ・ ヴィトンである。

ブランドを守ることは、文字通り「守りに 入る」ことではない。ブランドを体現して いるコアの部分は伝統として維持しつつも、 その上で革新を繰り返すことが必要である ことがわかる。
 
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