Weekly Matsuoty 2003/08/19
信頼の預金口座
 
ブランドとは預金口座のようなものだ、と いうのは、東京大学教授、片平秀貴氏の説 である。ブランドにおいて重要なことは、 そのブランド名義の預金口座を一人一人の ユーザーの頭の中に開設してもらうこと、 そして、預金残高を増やすことである。し かし、この預金残高を増やすということが なかなか難しく、単なる顧客満足では不十 分であり、大きな感動やショックを与える ことができないと増えないという。

ブランドの意義を理解するために、この比 喩はわかりやすいものだが、私は、あまり 身近な問題として捉えることができない。 大がかりなブランディング施策を想像して しまうからだろう。

しかし、「ブランド」ではなく、「信頼」 の預金口座と言い換えると、ぐっと現実的 なものになる。例えば、多くの企業が既存 客、見込み客との良好な関係の形成・維持 を目的とする無料のメールマガジンを発行 している。

こうしたメルマガは、販売が直接的な目的 ではなく、信頼の預金口座を開設し、残高 を増やしてもらうためのツールに他ならな い。そして、メルマガの内容が、購読者が 求めているもの、役に立つものであれば、 100ポイントなり、200ポイントなりの信頼 が累積されていく。つまり、購読者が価値 があると感じるものだから、残高が増える わけである。

ただ、企業としてもボランティアでメルマ ガを発行しているわけではないので、たま には、商品情報やセミナー案内など、企業 側が伝えたい情報を入れたくなる。しかし、 これは、一部の購読者を除いては、あまり 価値を感じられない情報であるため、預金 残高が何ポイントか減少することになる。

もし、企業側に都合のよい情報ばかりを連 発したなら、すぐに預金残高はマイナスと なってしまい、購読者は、預金口座の解約 に走るだろう。すなわち、メルマガの購読 中止、最悪の場合には、当該企業の商品や サービスの購入中止という結果を招く。

私は、仕事柄、大手から中堅・中小企業が 発行する多種多様なメルマガを購読してい るが、まさに一購読者として上述したよう な実感を持っている。一部の企業では、商 品情報が大半を占めるメルマガを送ってく るが、そうした企業の、私の信頼の預金口 座は大幅なマイナスである。解約しないの は、研究目的だからに過ぎない。

一方で役に立つ、あるいは楽しませてくれ るコンテンツを根気強く送ってくる企業の 預金残高は少しづつながら、着実に積み上 がっている。(ブランドと違って、大きな 感動やショックを与えるものである必要は なく、むしろ内容の質と継続が大事である)

もちろん、信頼の預金残高がたくさん積み 上がったかからといって、そうしたすべて の購読者が当該企業のユーザー(購入者) になってくれるわけではない。しかし、 「信頼」は、ユーザーになってくれるため の必要条件である。したがって、預金残高 を増やす情報、減らす情報の見極めを正し く行い、預金残高を増やすことに注力しな ければならない。

なお、こうしたことは、メルマガだけに限 らない。一度、「信頼の預金口座」という 視点で、顧客との様々な接点における対応 や情報提供のあり方を考えてみたらどうだ ろうか。
 
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