Weekly Matsuoty 2004/02/16
さくらとニワトリと卵
 
先季、日本一優勝を飾ったダイエー ホークスと、同様に先季、J2からJ1に昇格 したJリーグの「アルビレックス新潟」には マーケティング手法において共通した点が ある。

それは、招待券を大量に配って、無料の客 を地元の福岡ドーム、サッカー場(ビッグ スワン)に、どんどん呼び込んだという点 である。アルビレックスの場合、「新潟の ばらまき商法」と批判され、またホークス でも、球団代表の高塚猛氏に対する非難が 聞かれたようだ。

しかし、結果として数万人の観衆を集めた 地元の試合では両チームは奮起し、勝利 を収めることが多くなった。

同時に、無料で来場してきた観衆には、 「タダなら行ってみるか」という、今まで 野球やサッカーに興味のなかった人々が 数多く含まれており、ファンの裾野を広げ ることに成功した。

そのうち、無料招待券をあまり配らなくて も数万人の観衆が集まるようになり、球場 を埋め尽くすファンの熱のこもった声援の 中で、チームは勝利を収める。そして、 勝利はさらに地元のファンをあおり、ます ます来場者数が増えるという良循環に なっていった。

他の球団では、「勝てないから客が入ら ない」「客が入らないから勝てない」と いう悪循環に入ってしまっているようだが、 これは、ニワトリと卵のどちらが先かとい う不毛な議論である。

しかし、ホークスとアルビレックスは、 無料客という、いわば「さくら」を集客の 呼び水として戦略的に活用し、ニワトリと 卵の議論に終止符を打った。

なお、アルビレックスについては確認でき ていないが、ホークスの高塚氏によれば、 ファンの裾野を広げるためのコンセプトと して、球場をゲーム自体を楽しむ場ではな く、コミュニケーションの場として再定義 している。つまり、ゲーム自体にこだわる コアな楽しみ方だけでなく、気の合う仲間 同士で、野球をみながらワイワイやる、と いう楽しみを広げたのである。これは、 まさに、前回取り上げた「構造化の欲求」 に沿ったものであった。

おそらく、アルビレックスの場合も同様 ではないかと思うが、試合を媒介として 仲間といい時間を過ごせるエンタテイメ ントに変えることに成功したのであろう。
 
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