Weekly Matsuoty 2004/03/01
魔法の言葉
 
関西で伝説のドアマンと呼ばれた名田正敏 氏は、ドアマンという立場でありながら、 年約4億円の売上につながる成果を出して いた。

その秘密は、「お客様の名前」を覚えるこ とだった。正確には、名田氏が覚えたのは、 顧客の名前だけに止まらず、出身地や出身 校、趣味といった詳細なプロフィールにま で深まるのであるが。

名田氏は、名前を覚え、お客様が自分の働 くホテルに来るたびに呼びかけることが、 お客との心の結びつきを生みだすと考えた のである。

彼の名前の覚え方は、半端ではなかった。 彼は非番になるたび、ホテルをよく利用す る企業400社の駐車場の入口に一日中立ち、 重役の顔や、運転手、車種を覚えるように したのである。2年後、彼は4千人のお客様 の名前を呼びかけることができるように なっていた。

人にとって、最も心地よい言葉は自分の 名前である。自分の名前を呼ばれると、人 は無意識に警戒感を解き、相手の情報を受 け入れやすくなる。まさに自分の名前は 魔法の言葉である。

小売店やレストランなどでも、地域一番店 になるような優れた店では、お客様の名前 を覚え会話の中に頻繁に入れることを意識 的にやっている。

例えば、六本木にある高級レストラン 「カシータ」では、数ヶ月振りの来店に もかかわらず「いらしゃいませ、○○様」 と、相手の名前を呼んで出迎える。お客は、 「え、どうして私の名前を覚えているの?」 と、うれしい驚きを感じて、カシータの大 ファンになってしまう。

このように、お客様の名前を呼んでサービス することを「バイ・ネーム・サービス」と 呼ぶのだが、「カシータ」では、このやり 方を徹底しているのである。

考えてみれば、私自身、年数回は必ず行く 広尾の炭焼き料理の店は、料理の質が素晴 らしいことに加えて、予約の際に、たまに しか行かない私の名前を覚えてくれている こと、またお店では、「松尾さん、最初は 何からお飲みになりますか?」と、必ず名 前を呼んで話しかけてくれることが印象に 残っている。おそらく、自分の名前を呼ん でくれるからこそ、繰り返し行きたくなる のだろう。

私自身も、やはり魔法にかかっていたのだ。

*この内容は、マーケティングホライズン 2002年7月号の記事や「儲けを生みだ す表現力の魔法」(平野秀典著、かんき 出版)などを参考にさせていただきました。
 
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