Weekly Matsuoty 2004/07/19
顧客とブランドの結びつき
 
今回は、ブランディングの方向性を考える ことに有効な、一つの枠組みを紹介したい。

これは、オグルビーワンの方々の講演内容の ポイントをまとめたものである。貴重な知見 を開示していただいた、オグルビーワンの 方々にこの場を借りてお礼申し上げます。

なお、説明のわかりやすさのため、私自身の 解釈を入れている部分がある。

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顧客とブランドとの結びつきのうち、コント ロール可能なものは次の3つがある。

1 ファイナンシャルボンド  (金銭的結びつき)

2 ソーシャルボンド  (心理的結びつき)

3 ストラクチャルボンド  (構造的結びつき)

*なお、コントロールできないものとしては、 「慣性」、すなわち以前から買っているから 今回も購入する、といった購買行動がある。 これは、ブランディング施策に具体化できな い結びつきであるため、考慮しない)

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1 ファイナンシャルボンド

ファイナンシャルボンドとは、顧客のリピー ト購入や好意度など、ロイヤルティの高さに 対する金銭的な報酬である。いわば、ロイヤ ルユーザーに対する「わいろ」と言える。

これは、消費者の強欲さにつけこむやり方で あり、効果は長続きしない。消費者は、現在 よりも、さらに魅力的な報酬を求め続けるか らである。

2 ソーシャルボンド

ソーシャルボンドとは、顧客との継続的な情 報交換を通じて、エモーショナルな関係を構 築するものである。

人は、製品選択において、合理的な判断だけ でなく、情緒的な評価も同時に行う。したが って、コミュニティ作りを通じてブランドに 対する帰属意識を高めたり、大切にされてい るという気持ちを持たせることで、購買行動 を喚起できる。

ただし、どんなに心の結びつきを高めても、 それは大幅な価格差やサービスの弱さを補え るものではない。ちょっとくらい安いくらい ではなびかない消費者も、極めて割安な価格 を提示された場合には、「コストパフォーマ ンス」のような合理的な判断が優ってしまう のである。

3 ストラクチャルボンド

ストラクチャルボンドとは、顧客の個別特性 を反映させ、よりカスタマイズされた製品・ サービスを提供したり、長期契約などを通じ て離れにくくしてしまうことである。

ストラクチャルボンドは、顧客にとって、手 間や時間を短縮できるものであれば、リピー ト購買を行う理由を正当化する。また、長時 間かけて蓄積された知識に立脚しており、競 合の影響を受けにくい。

しかし、ストラクチャルボンドを正当化する 理由が、企業側の論理を優先していたり、顧 客には不必要なものであった場合、顧客に拒 絶され、リレーションシップを壊してしまう。

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さて、顧客との結びつきを構築・維持するた めには、上記3つの結びつきはすべて重要で あるが、基本的に次のような使い分けが必要 である。

・ファイナンシャルボンドで顧客をコミュニ  ケーションへと誘い、関係性を維持する。  (ロイヤルティではなく、顧客情報獲得が   主目的)

・ソーシャルボンドで気持ちの結びつきを強  化する。(ブランドに心や個性の要素を付  加することによる、ロイヤルティ醸成が主  目的)

・ストラクチャルボンドで、離れにくくする。  (ロイヤルティ向上ではなく、顧客離反を  防止することが主目的)

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(松尾所感) ブランディングとは、基本的にブランドと顧 客との関係性のあり方のことである。

関係性構築のための具体施策には様々なもの があるが、しばしばその施策がどんな目的に 対して効果的なのか、ということをよく理解 しないままで導入されているケースがある。

より効果的なブランディングを行う上で、上 記に示した3つの結びつきの特性と、その使 い分けの方向性は、とても役に立つだろう。
 
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